19
※9巻ネタバレ
「泣いてはくれないんだ」
サンダーランドJr.博士の研究室にあるベットの上で狸寝入りをしていた彼は側に立つ私を見て、そう呟いた。
目をしばたたかせ、口をパクパクしている私に、秘密だよ、と言わんばかりに彼は自分の唇に指を当てて幼い子供にするようにしー、と声を出した。
冷凍物件課の掃除が終わって閉館時間が近付くハチノス館内で博士の研究室に来た。見ると博士と、少しの研究員しか残っていなかった。だから、少しの間、ここにいる許可をもらったのはつい先刻。
しばらくゴーシュの顔を眺めていると彼が口を開いて目を瞬いて、泣いてはくれないんだ、と呟いたのだった。
それに感情を悟られないように答えた。
「貴方のための涙はもうなくなってしまったの」
「昇格して、行方不明になって、離れてから泣いてくれたことがあった、てことなんだね」
「…‥そうね」
「貴方のための、の貴方って誰をさしてるんだい?」
「どちらでも、いいでしょう」
「よくないよ」
だって君は─────涙で頬を濡らしているじゃないか。
呟いて、彼は私の頬に指をやり、優しくぬぐってくれた。
それにゴーシュ、と呟いてしまう。
言うつもりは無かったのに彼はノワールでもゴーシュでもあるはずなのに。たぶん彼を傷付けた、と思いながら、見つめた。涙は流れ続ける。彼は腕を伸ばして涙を拭い続けているからその腕に、手に、そっと触れた。
彼は悲しそうな笑みを浮かべてベットに横たわっているから、きっとノワールなのでしょう。
もう、彼がノワールであろうとゴーシュであろうと、どちらでもいい、と思えた。
貴方とあなた
冷凍物件課にてラグが配達中の小話。
こっそりあっていたりするのかな、なんて。
眠ってる彼には会わないって決めてそうだけど。
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