13
「ずっと、じゃなくていいの」
「一瞬でいいから。あなたを頂戴。」
本当に一瞬。触れるだけのキスでいい。
私を見て。私だけをうつして。
「私を抱きしめて」
対峙していた黒い彼に請いた。
私が自宅に帰る道すがら、時々彼が姿を表す。何をするでもなく、一メートルくらい離れてお互いに突っ立ってる。
初めてあったときは彼にチップ花の綿毛を突きつけられた。思わず受け取ったそれは自宅で小瓶に入れて保存してしまった。
それ以来、彼は私の帰路に時々姿を現した。でも、それだけ。
直ぐに闇に紛れ行く。
だから思わず口から出のは"抱きしめて"だった。おかしいね。敵、なのに。
だけど。
ふわり。
黒いマントが私を包む。暗闇で感じたのは久しい彼の臭い。
ぶわり。
瞬く間にそれは離れて温もりだけを残した。
彼は私の願いを叶えてくれた。
「今度会う時は敵だから」
「一瞬を」
ありがとう、とは塞がれて言えなかった。
それは触れるだけで瞬く間に離れ行く。
『ありがとう』
最後の台詞を奪った彼は私の唇も奪っていった。
そして、今日も闇に紛れ行く。
ねぇ。今度、また、私の願いを叶えに現れてくれる?
もう永遠は諦めたの。
(だから、一瞬の温もりをもう一度。)
.
ノワアリは密会してたらいいよ、な発想から。
[ 76/116 ]
/soelil/novel/1/?ParentDataID=1