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※10巻ネタ。
※捏造注意!
私は彼を嫌いになる。
決意したの。
あの柔らかい髪も、優しさも、言葉足らずなところも、妹思いの所も、母の存在を失った所も。味覚音痴な所も。不器用な所も───ぜんぶ嫌いになるって。
好きでいたら私は辛いわ。
待ち焦がれて何になるの?
彼といて幸せになれるの?
人生が安定するというの?
答えは全て──いいえ。
だったら私は彼を素敵な思い出として封印しましょう?
親友として待つのがベスト、それが一番よ。
ガチャン、と恋心の鍵を閉めて遠くへ、と投げ捨てた。それこそ所在不明の彼のようにどこか知らないことに。
そういい聞かせて、あなたがいなかった時間を過ごしたの。
今思えばたった数年だったけれど、来る日も来る日も悩ましいくらい長くて、切なくて。
だけど決めたことだし、恋心の扉を閉めて鍵をかけたのだから開けない、と強く決意して副館長として事務処理に没頭した。
やっと振り切ったのが最近だった、のに。あなたがいなくても気丈にやっていけるようになった、のに。
アリア、と。
ハチノスに帰還したら、懐かしい響きが耳に入って、振り向いたら彼がいるじゃない。
どうして。
驚きで足が震えて、立ってられなくて、その場に崩れ落ちてしまった。
どうしてあなたは帰ってきて、あの時と変わらぬ声で優しく呼ぶのですか。
────記憶を失って、ゴーシュ・スエードに戻れないはずなのに。
相変わらずこけるんですね、と片膝をついて手を差し出すもんだから、貴方こそ相変わらずじゃない、と言おうと思ったら涙が溢れでた。
涙を拭う代わりに、彼は私を抱き締めてただいま、アリアと呟いた。
どうして不器用な優しさで包んでくれたのですか。
────懐かしくて、嬉しくて、そして私の中の何かが壊れる音がした。
カチャン、と。
どうして。
遠くへやった鍵を持ち出すようにカチャン、と簡単に扉を開けてくれたのですか。
しまい込んだ思いは溢れだして、もう、敵としてしか会えないと思っていたのに以前と変わらぬ姿だったから堪らなくて。
抱き締めてくれた彼の胸に顔をうずくめて大泣きした。
アイロニーに酔しれて
泣き止まない私をシルベットをあやすように頭を撫でて強くだきしめてしめてくれるから余計に収集がつかなくなって、泣き続けた。
補足
アリアさんとニッチが配達からハチノスに帰ったたらゴーシュと対面した設定。
ニッチは二人を後ろから眺めてるか、ラグの元に失踪してるかのどちらか。
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