Short Novel | ナノ


▼ 背中と背中 

 うざったいほど暑い。
 まだ三月だっていうのに、なぜこんなにも太陽は元気なんだろう。
 背中にじりじりと当たる早春の光は、明らかに厚着の俺を虐めていた。
 居る居る。俺と同じように、このさんさんと光る太陽をじれったそうに睨んでいる奴ら。
 そろそろ衣替えも考えているんだろう。学生たちだ。
 聞えてきた憂鬱そうな会話からすると、これから学年末テストとか、先生たちのイヤミかと思うほどの量が出るんだろう。
 とすると、ちょうど俺と同い年ぐらいの奴らだな。
 ただ、一つ違うことといえば、俺は定期テストなんか気にせず、今こうやって仕事をしている。
 アルバイトとか、そういうものじゃない。ちゃんとした仕事だ。
 新聞配達や、そういう仕事でもない。
 ただ、新聞配達のように体力を使うのは確かだな。

 死神、それは、なんて非現実的な仕事。



     




 さて、なぜこうやって道行く学生をこんなところから見下ろせるのかというと、俺は、そう、死神だからだ。
 死神といっても、大きな鎌を持っていたり、見るのも恐ろしいほどの形相をしているわけでもない。
 もちろん、黒マントなんて羽織ってない。
 死神として持っているのは、ただ一つ。頭に乗せた黒い帽子のみ。
 すべての死神が、この帽子をかぶっているわけではない。
 それぞれ形こそ違うが、上級の死神はこうやって級位を表す。
 つまり、何回もの仕事を成功させ、経験を積んだ死神だけが、こうやって帽子をかぶることができる。
 細々とした努力のかいもあり、こうして帽子をかぶっていられる俺は、なかなかな上級者ってわけだ。
 ただ、ひとつ気に入らないことといえば、与えられた俺の帽子がテンガロンハットだということだ。
 ほら、カウボーイとかがかぶっている、あれだよ。
 顎の下に伸びる長い紐は邪魔だし、無駄にでかい。
 ずり落ちて視界は遮られるし、見た目もあんまり似合わない。
 唯一役に立ったのは今日だけだ。日の光で目を細めずにすむ。
 まあ、最近見た死神仲間のベレー帽よりましか。あれは下手な漫画家に見えたもんな。
 それに、目出し帽とかじゃなくてよかった。
 だって、どこから見てもあれは、銀行強盗用じゃないか。


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