Short Novel | ナノ


▼ あの日の忘れ物 


 考えもなしに家を飛び出して、

 勢いで酒を飲んで酔って、

 気づいたときには、

 目が眩むほどのライトを体いっぱいに浴びていた。


 17歳の夏――






 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、

 気がつけば、身に覚えのある独特の揺れ方に、体が揺らされていた。
 上下に、左右に、特に一定性もなく、俺は酔っ払いみたいに揺さぶられる。
 靴が地面を叩きつけるような音がする。その音に重なる、ざわめく複数の話し声。
 ああ……痛い。体がまるで岩のように重く、あちこちが悲鳴をあげている。
 俺、今頃きっと、血まみれだろうな。
 いつまでも続く闇の中、突然目の前が真っ白になったと思ったら、あんな大きなトラックに踏み潰されたんだ。
 希望なんて儚いものは、あいにく持ち合わせていない。
 しかし幸いなことに、おそらく即死だ。

 生きているわけがない。

 その時、服の裾を引っ張られる感覚で、俺はうっすらと目を開いた。
 普段より、まぶたが重かった。体が前後に揺れて、目の前がぶれる。
 少し動くたびに刺すような痛みに襲われる腕を上げ、ぼやける目を擦ると、目の前には大きな目玉がふたつあった。
「うわっ」
 俺は思わず声をあげ、体を仰け反らせる。
 すると、目玉の主はけらけらと笑い、体を低位置へ戻した。
「やっと起きた」
 色の薄い目玉の主は、声変わりもまだの、少年だった。
 揺れる座席に従いながら、大きな目玉は遠ざかる。
「もう暗くなってしまったよ」
 そして少年はにこっと笑った。まだほんの小さい。小学生――低学年ぐらいか。
 石で叩き切ったのかと思うほどざんばらに切った髪と同様、薄汚れた泥色の服を着ている。サイズが合っていないから、片方の肩からずり落ちていた。
 おそらくは日本人だ。しかしその風貌からして、多分俺の生きてきた時代の人間じゃない。
 少年は体を前後に揺らし、つまらなそうに唇を尖らせた。そして木製の窓枠に視線を這わせ、今度は座席の角に従って、また俺に目を戻す。
「ぼく小太郎。お兄ちゃんは?」
「あ? あぁ、俺……」
 俺の名前は……。
 なんだ?
「えーと、わ、わかんねぇ」
 事実だった。俺は奇妙な感覚に頭をかき、少年を見ずに答える。

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