帽子屋 最終話
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 冷たい雨が、ぼくらを容赦なく打ち付ける。



「こんにちは」



 沼のようになった道で、久しぶりに人の声を聞いた。



〜帽子屋〜  ―最終話―




 錆びて、今にも折れそうな風見鶏が、ぼくらの上でぐるぐると回っている。
 ぼくが顔を上げると、傘もささず、ぼくらを覆うようにして覗き込んでいる、青白い顔の男が居た。
 まるでからすが人になったような姿だ。帽子からマント、足元まで、全身が真っ黒。

「子猫が死んでいるの」

 ぼくは言う。

「ほう」

 すると男は曖昧な笑みを浮かべて、ぼくに大きなシルクハットをかぶせた。
 大きなシルクハットは、ぼくの顔をすっぽり包み込んだ。ぼくはちょいとシルクハットを持ち上げ、からす男の姿をうかがう。
「風邪をひいてしまいますよ」
 男はそう言って、ぼくにやさしく微笑んだ。
 耳まで口が裂けていたのか、口元には縫った糸の跡があった。
「ありがとう」
 ぼくはシルクハットを脱いで、逆さにして子猫を入れてやった。汚れた子猫を帽子に入れても、男はぼくを叱らなかった。


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