帽子屋 第一話〜帽子屋〜 ―第一話―
わがまま、意地悪、自分勝手。
思いやり、不器用な優しさ、子供のように笑う顔。
そんなあなたを愛していたわ。
直弥、ねぇ。
「あなたはどこに行ったの?」
高校に入りたての夏。私は、愛しい人を失った。
小学三年生の頃から、ずっと同じクラスだった。
引っ込み思案な私をからかって、八重歯を見せる幼い笑顔も。
泣き虫な私をなだめて、ずっと抱きしめていてくれたあの日の夜も。
いじわる直弥が、いつの間にか一番大切な存在になっていたの。
それなのに……
「大丈夫、ちょっと試し乗りに行って来るだけだよ。上手く乗れたら、お前も連れて行くからな」
直弥はいつものように笑って、免許をとったばかりのバイクに跨った。
なぜだか、胸騒ぎがした。
何度も言った。お願いだから、やめて。と。
それでも直弥は聞かなかった。得意げに買ったばかりのバイクに跨り、行ってしまった。
電話が鳴ったのは、わずか数十分後のことだった。
突然の大雨、悪戯にずらされた工事中の標識。
バイクのライト以外明かりもなく、雨で視界の悪い中、直弥は、何も知らずにそこへ――。
信じられなかった。嫌に高鳴る胸を抑え、私は病院へ急いだ。
信じられなかった。直弥が、もう居ないなんて。
信じられなかった。もう、あの日のようにからかってもらえないなんて。
信じられなかった。
またああやって、子供っぽく、微笑んでくれないなんて……。
next|
prev