005 ――その後、ヴォルトは部屋に戻って来なかった。
戻ってきたのは、翌朝。茶色の目を、真っ赤にして帰ってきた。
そう、案の定、罰を受けてきたんだろう。
乱暴に部屋に入ってきてソファに座るなり、ヴォルトは一言も話そうとしない。
まだ罰の衝撃が残っているのだろうか。肩が震え、動きが辛そうだ。
「ヴォルト……大丈夫かい? 少しでも、休んだほうがいいよ」
むっつりと黙り込むヴォルトに、ぼくは恐る恐る話しかけた。
ヴォルトはじろりとぼくを睨んで、黙ったまま首を横に振る。
「でも……」
しつこく言うぼくに、ヴォルトは相当いらついているようだ。茶色に戻った目を伏せ、不機嫌そうに目線を合わせようとしない。
だけど、ぼくたちだって疲れるんだ。ちゃんと体を休ませないと、故障の原因になる。
「ヴォルト、ラボに戻ろう。充電はしなくてもいいから、ただ横になるだけでも」
ぼくの精一杯の一言に、ついにヴォルトが切れた。
「うるせぇな!!」
ヴォルトはついに立ち上がり、怒鳴り声をあげた。
今にも噛みつかれそうな勢いに、ぼくは驚いて飛び上がる。
ヴォルトはぼくをもの凄い目で睨んだかと思うと、顔を顰めて舌打ちし、また不機嫌そうに目線を落とした。
「お前たちにはわかんねぇよ」
ヴォルトは吐き捨てるように呟き、早足に部屋を出て行った。
ぼくは口を半開きのまま、唖然とその場に立ちすくみ、しばらく動けなかった。
様々な疑問データが、ぼくの頭の中を這い回る。
ヴォルトは、なぜあんなに怒っているのだろう?
ぼくたちにわからないこととは、なんだろう?
ぼくは居ても立ってもいられなくなった。
ぼくは、部屋を飛び出した。
「ヴォルト!」
ぼくが追いついた頃、ヴォルトはちょうどあの螺旋階段を降りる途中だった。
ぼくの声を聞いて、ヴォルトが振り返る。早速、「なんだよ」と言わんばかりに睨まれた。
牙をむくライオンのような表情にも、ぼくは怯まず、にっこりとする。
「散歩なら、ぼくもついて行っていい?」
ぼくの引きつった要求に、ヴォルトはちょっとむっと顔を顰める。
しかしすぐに、わかったよ、と肩をすくめた。
「許可は取ってない。お前も罰を受けるぜ」
「うん、承知の上さ」
ぼくは急いで、ヴォルトに合流する。
なんだかんだ言っても、ヴォルトはその場を動かず、ぼくを待っていてくれた。
「あーあ、優等生のアランくんが、不良になっちまう」
ヴォルトはニヤリとしながら、ようやくぼくをまっすぐ見上げる。
「ぼくは根っからのひねくれ者だよ」
ぼくもニヤリ笑いを返し、下階の公司たちを見下ろした。
扉の両端に二人見張りが立っている。あとは、数人がテロリストの暴動を警戒して、まばらにロビーをうろついているだけ。
ぼくたちは下に居る公司たちに気付かれないよう、目と目で合図をして、その場から跡形もなく、消えた。
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