003
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 ――ぼくたちは、ロボットだ。
 お父様と公司たちによって造られた、人工的な超能力を持つ、GXという人型ロボット。
 お父様はぼくのようなロボットを、今まで七体製造した。
 GXシリーズは、どこからどう見ても人間と思われるような、精密な人のかたちに作られ、それぞれ得意とする特殊能力を備えている。
 ぼくはもちろん、ここに居る二人も、もちろんそう。
 GX.No,4、テイル。特殊能力は風。彼女は風をあやつることによって、ときには鋭い刃で敵を攻撃し、そしてやさしい盾で自分を守る。
 最初は風なんかで攻撃ができるのだろうか、なんて思ったけれど、とんでもない。もしかしたら、テイルは怒らせたら、ぼくらの中で一番恐いかも。
 ほら、台風が起きる前の生ぬるい風が今のテイルだとしたら、怒ったときのテイルなんて、うずまく台風そのものだ。
 この前テイルのお気に入りの花瓶をヴォルトと割っちゃった時なんか、公司館が丸ごと飛ばされるかと思ったほど、ものすごい仕返しをされてしまった。
 そして今、ぼくの隣で猛スピードでケーキを口にかっ込むのは、GX.No,7、ティーマ。特殊能力は「生命」。 生命という特殊能力がどう使われるのか、ぼくらはまだ知らされていないけれど、とても明るくて元気な子。
 まだ“お仕事”の経験は浅いけれど、さすが最新型だけあって、ぼくらの欠点を補い、長所を生かした、かなりの高性能を備えている。
 ティーマが産まれてから、公司さんたちは、メンテナンス以外でぼくらをいじるのを止めた。今はティーマでいろいろ実験しているらしいけれど、ティーマはいつも晴れやかな顔でラボから部屋に帰ってくるから、きっと痛いことやひどいことはされていないと思う。
 このぎこちないしゃべり方は、ティーマが周囲の環境から学習することをきちんと確かめるため、体を動かすなどの最低限のデータしか入れていないせいだ。
 ティーマは、ぼくらの妹のような存在で、とくにぼくによく懐いている。
 だけど、毎日の“お仕事”の後に、ぼくが壊れそうなほど勢いよく飛びついてくるのは、なんとかならないものかな……。
 そしてぼく、GX.No,5、アラン。ぼくは、水を自由にあやつることができる。
 さらさらと指の間をすりぬけ、儚げに見える水は、本当は凶暴なもの。
 凍らせれば鋭い刃物になるし、一点に集めれば、何人もの敵を溺れさせる事ができる。
 お父様は、ぼくのことを、“ゼルダ”って呼ぶんだけれど……。
 実はぼくはその名前がどうしても気に入らなくて、こっそりだけれど、最近自分ではアランと名乗るようになった。
 お父様は、この地下の世界で政治の中心を司る人物、公司長。この地下世界の最高権力者であり、ぼくらを造った張本人だ。
 だから、ぼくらは「公司長」ではなく「お父様」と呼んでいる。
 お父様も、ぼくらのことを息子や、娘と呼んでくれる。だからGXは、人間でいう兄弟のようなものなんだ。
 頼まれた“お仕事”を成功させると、お父様は、とても褒めてくださる。でも、失敗したり、無断で外に出たりすると、厳罰をあたえられる。
 人間の父親も、きっとこのようなものなんだろう。

「さぁ、アランさん。お茶が入りましたよ」
「……あ、ありがとう」
 ぼくはぼんやりと見つめていた花から顔をあげ、テイルからお茶を受け取った。
 今日はさわやかなフルーツの香りがする、フレーバーティーだ。テーブルにある花と同じ花が、飾りとしてちょこんと浮かべられている。
「どうでした? 今日の“お仕事”は」
 テイルが優雅な身のこなしで席に着き、ぼくに問いかけてきた。
「うん……結構、楽なほうだったよ」
 ぼくは熱いお茶を冷ましながら、お茶の中の花をくるくると遊ばせる。
「上級能力者は居なかったし、それにあまり高性能な武器もなかった。近頃は最新の武器に対するアップデートが早いからね、対処できるものばかりだったよ」
「そうですか。お疲れさまでした」
 テイルもカップを口に運び、丁寧に受け皿に戻したところで、ぽんと両手を合わせた。
「あらあら、そうだわ。先ほどお父様のご褒美で、新しいお菓子が届きましたの」
「ほんとぉ!?」
 テイルがそう言ったとたん、話の半分も聞いていないんじゃないかと思うところで、ティーマが椅子に飛び上った。
 お父様に買ってもらった赤い靴が、ガンガンと椅子を叩きつける。
「ティーマ、もらってくる!」
 テーブルに身を乗り出したティーマをなだめ、テイルはキッチンからチェック模様の布の敷いてあるかごを取ってきた。
「じゃあ、お願いできるかしら」
 ティーマは何も入っていないかごをじっと覗き込み、なんともいえない目で再びテイルを見上げる。
「いいですね、お外には出てはいけませんよ。それに、廊下や壁を壊してはいけません。公司さんのお仕事の迷惑にならないように、なるべく走らずに行くんですよ」
「うん! ティーマ、できるよ!」
 ティーマは体ごと大きく頷くと、椅子から飛び降り、ジェットエンジン並みの猛スピードで部屋を出て行った。
 ティーマはまだ人工頭脳が完全でないため、なかなかこの部屋の外に出してもらえない。だから、公司館を自由に歩き回れるなんて、嬉しくてたまらないんだろう。
 ぼくらは左右の扉が大きく交互に揺れるのを見てから、顔を見合わせてくすくすと笑った。
「まったく、元気がいいなぁ」
 ぼくはそう呟きながら、お茶を一口飲み込んだ。
 ロボットといえど、ぼくたちは食事ができる。それは、“仕事”をするときに、より人間に溶け込めるように。
 パーティー会場や、食事会などに紛れ込んでも、ぼくたちの正体がばれることはまずないだろう。
 だけど、今のところ食事をする機能があるのは、No,4、つまりテイルからティーマまでの四体。
 食べたものは、残さず体の中でぼくらのエネルギー源に変わる。週に一度充電をしないとやっぱり動きにくいけど、それ以外を考えれば、ほぼ人間の食事と同じようなものかな。
 ちなみにぼくの大好物は、エビの入ったグラタンです。



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