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 ――テイルのご機嫌そうな鼻歌とともに、白い扉が開いた。
「見てくださいな、お父様がこんなにお洋服を買って下さったんですの」
 テイルは嬉しそうに、自分の髪の色と同じ、綺麗なエメラルドグリーンの洋服を自分に合わせ、くるりと一回りする。
 いかにもテイルが好きそうな、フリルがいっぱいで、リボンの数も果てしない、そんな服だ。
 今のぼくに、愛想笑いをして「素敵だね」なんていえるほどの気力は、もう、ない。

「ヴォルトが、壊れたよ」

 ぼくはうつむいたまま、呟くように言った。
「まあ……またですの? 早く直して頂かないと」
 テイルは洋服のいっぱい詰まった紙袋を、ぼくの後ろのソファに置いて、うんざりしたようにそう言った。
 鼻歌が聞こえる。のんきな返事に、ぼくはテーブルに肘をつき、頭を抱えた。
「もう直せないんだよ」
 ぼくは言う。
 その言葉に、ついにテイルも、顔を顰めて振り向いた。
「今、何て?」
「お父様が、直そうとしなかった」
 ぼくは、汚れの一つもない白いテーブルを見つめ、もう一度言う。
 すると、テイルは一瞬はっと息を呑んだようだが、すぐに首を横に振り、また深くため息をついた。
「……当然ですわ。ヴォルトさん、ずっとお父様に反抗してばかり……」
 テイルはそう言いつつも、口に指を当て、戸惑うように目線をあちこちに走らせる。
 内心では、まさか、と思っているに違いない。
「お父様は、いつも正しいのです。お父様に従えば、間違いなど……」
 テイルが、ぽつりぽつりと言葉を吐く。
 しかし、その言葉は、あまりにも弱々しく、震えていた。
 ぼくはじっとその様子を見つめ、唇を結ぶ。
「そんな……」
 テイルは力なくその場に腰を下ろし、口を両手で押さえた。
「お父様がそんな事を仰るはずがありませんわ。また、悪いご冗談を……」
 震える声が、必死にお父様を信じ込もうとしている。


「お父様はそんな方じゃございませんわ……――!」


 まるで泣き崩れるように、その場に伏せるテイルは、
 今、まさに、ぼくの心情そのものだった。



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