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 ――ぼくはゼルダへ、ぼくが感じたすべてのことを話した。
 お父様は間違っていること、ぼくらのしたことのせいで、悲しむ人が居ること。
 もしかしたらお父様に告げ口をするかもしれないから、地下三階のことと、脱走のことは言わなかったけれど。
 ある程度を話し終わると、少しの沈黙の後、ゼルダは短く返事をした。

『ふうん』

 それだけ。
 あまりに素っ気ない言い方に、ぼくはまた少し頭にきた。
「なんだよ、何か感じないのかい?」
 ぼくが顔を顰める。
 すると、ゼルダは驚くべき返事をした。
『当たり前のことを、言われてもな』
 パチパチとキーボードが音を立てる中、ぼくは呆然としていた。
 見つめる緑色の文字が、グラデーションに揺らぐ。
「今、何て言った?」
 ぼくは思わず、苦笑いをして聞き返した。
『当たり前のこと、そう言った』
「なんだって!? じゃあ、君はもう前からそれを知っていたって言うのかい?」
 ぼくは思わず立ち上がり、噛みつくように大声を出した。
 そんなぼくに、ゼルダが迷惑そうに唸る。
『君は、そんなことまで置き忘れていたのかい?』
 ゼルダが、ぼくをさらに苛立たせる言葉を吐く。
「ぼ、ぼくはヴォルトから聞いたんだ! だ、だから、も、もう」
 混乱と怒りのあまり、指先が震える。
 何もかもが詰め込まれたように膨らむ頭の中。見開いた目玉が飛び出そうだ。
 だって、ぼくはあれほど悲しみ、深い罪悪感を負い、今までどれだけ苦しんだことか。
 それなのに、“ぼく”であるゼルダは、たった一言――しかも、それが当たり前のことだって?
『お父様から聞かされたじゃないか。変化に犠牲はつきものだって』
 ゼルダがパチパチとキーボードを素早く音を鳴らす。
 光る文字がぼくの怒りを煽る。ぼくは震える腕を押さえ、首を横に振った。
「うそだ。ぼく、そんなこと聞いていない」
 ぼくは言う。
 ぼくの言葉を聞いた後、ゼルダはまた嫌そうに唸った。

『本体に置き忘れて、覚えてないだけさ。ぼくらは最初は同じものだったんだ』

 ゼルダが止まることなく、素早くキーボードを打つ。

『お父様は、ぼくらのためなら、増えすぎた人間の一人や二人、消したっていいと言っていた』


『お父様はいつだってぼくらのことを大切に思っている』


「間違ってる!」
 ぼくは叫んだ。
「この世界に消えていいものなんかないんだ! だから、ぼく、ゼルダを壊しちゃったときは、本当に後悔したんだ。人だってそうさ! 人が消えたら、絶対に悲しむ人が居るんだ。消えていい人なんか、居るもんか!」
 頭が割れそうだ。
 どうしてわかってくれないんだ?
『わからないよ』
 ゼルダが小さく打つ。
『どうしてそんな事思うのさ? 君の考えって、ぼくらとかけ離れてる』
『君って、ぼくから勝手に独立した、余計なデータと、残り物の集まりじゃないか』
『GXは、ぼくらは、お父様と公司さんたちによって造られた。だから、勝手に独立して、残り物で作られた君は、』




『アラン、君は、ぼくと同じじゃない。ぼくらの仲間なんかじゃないんだ』




 ゼルダの言った言葉が、ぼくを真正面から突き刺した。



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