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 なんで……――?
 再起動は、お父様にしか出来ないはず……。
 だけどシオンのように、お父様に許しを貰い、記憶を消す力や、お父様にしか出来ないことを授かることは、今までだって例外ではない。
 いつの間に……テイルは、それを許されていたというのか……――?
 目の焦点が合わなくなる。物が二重に見える目の前で、ゼルダが歯を食いしばり、ぼくの体の中を掴んでいくつかの部品を引っこ抜いた。
「アラン!!」
 ティーマが手を伸ばした。しかし、すぐにヴォルトが、駆け寄ろうとしたティーマをしっかりと押さえた。
 ぼくの体が、硬直したように、動かなくなった。
 しかし、両手は小刻みに震えている。
「お前の体のことは……全てお見通しだ……!」
 ゼルダの声が、聞こえる。
 目の前がかすんできた。
 いや、かすんできたんじゃない。
 目の前が、赤くなる。

『ピー……』

 自己防衛機能が、動く。

「……しまった……!」

 ゼルダの声が、ぼくの頭に響いた。
 ゼルダが体を引いて、ぼくは前のめりに倒れる。意思とは関係なく、両手が飛び出て、ぼくの体を支えた。
『30%破損、自己防衛を開始いたします』
 二重に重なったような不思議な声が、ぼくの口から勝手に飛び出す。
 ぼくは体を起こしていく。ゼルダにあけられた穴から、ちぎれたコードが露出している。
 ぼくの中に流れていた水と毒々しい色の液体が、ぼくのお気に入りのシャツを染めていく。
 しまった。

 もう、ぼく自身では、ぼくを制御できない。

 お父様は、なんて残酷な機能をぼくらにつけてくれたんだろう。
 ぼくの体は勝手に動いているのに、ぼくの意識ははっきりしている。
 ぼくの体が勝手に人を傷つけているのに、ぼくはそれをしっかり見ている。
 ぼくはゆっくりと立ち上がり、ゼルダのほうに向き直った。
「いやー! アラン!!」
 ぼくの背後で、初めてティーマが悲鳴をあげた。
「ティーマ! だめだ!」
 ヴォルトの声が聞こえる。そうだ、ヴォルト。ティーマを押さえていて。ぼく、何をするかわからない。
 そうだ、そのまま、逃げて。みんな、逃げて。ぼくから逃げて。お願いだ。壊してしまう。
 何もかも、壊してしまう――!
 ヴォルトとティーマが、廊下へ駆け出て行った音がした。
 後ずさりするゼルダの向こうに、ガタガタと震えるテイルが見える。
「アラン! やめろ! おい! 聞いているのか! おい!」
 ヴォルトの叫び声が、遠く後ろから聞こえてくる。
 聞こえているよ。やめたいよ。ヴォルト。
 きみが造った体じゃないか。どうにかして、止めてよ。
 ぼくがいくら抵抗したって、ぼくを止められないんだから……!
 目の前をうろうろと行き交っていた赤い丸が、ゼルダを見つけて、標的として認識した。
 ぼくは腕を水平に上げた。くるりと手のひらを上にすると、手首からすっと筋が入り、皮膚を突き破って、最悪の兵器が顔を出す。
 小型ミサイルだ。よほどの緊急事態でなければ起動しない、街一つ壊しかねない最終兵器――今こそその時だと、ぼくの体は決断したらしい。
 ゼルダはぼくと同じ緑色の目を見開き、首を横に振る。
「お前は、お父様に反している……!」
 ぼくと同じ声で、ゼルダが言う。
 そうさ。ぼくはおもいっきり、不良だよ。ゼルダ、優等生のきみとは違う。
 ぼくの目の前にまた二重丸が現れて、位置を変えたゼルダを中心に押さえる。
 ぼく、本当にゼルダを消してしまうんだろうか。
 さっきまで、あいつなんか跡形もなく消えてしまえばいい、って思っていた。
 ヴォルトのくれた強気は、もう期限が切れたみたいだ。
 今では、弱くて、臆病で、女々しいアランだけが残っている。
 目の前に居るもう一人のぼくが、近づいていくぼくから逃げようと、一歩一歩後ろに下がっていく。
 その表情は、前の情けないぼく、そっくりだった。
 ぼくの足が、ぼくの指令とは逆に、どんどんゼルダに近寄っていく。
 テイルが悲鳴をあげて、ぼくの横を通って逃げていった。
 ぼくは、少しずつ、確実に、じりじりとゼルダに歩み寄る。
 ついにゼルダは、後ろのガラス張りの壁へ、押しつけられた。
 揺れていた二重丸の中心が、ゼルダにぴったりと重なった。
 ぼくの口が何か勝手に呟く。
 ゼルダがそれを見て、首を横に振る。

 逃げて。

「……アラン……!!」

 低い爆発音と共に、ゼルダは公司館の外へ落ちて行った。
 最後に、ぼくの名前を呼んで。



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