034
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「もうひとつ、体を作ってやるよ」
 その言葉の後、ヴォルトはすぐに作業に取り掛かった。
 ぼくのラボのドアをきつく閉め、いろいろな物をドアの前に敷き詰めた。誰も入ってこないように、精一杯のバリケードだそうだ。
 確かに、GXがGXを造っている所なんて見つかったら、もちろん厳罰を受けるだろうし、ぼくらを造った公司の面目は丸つぶれだ。
 何より、ヴォルトが集中している時に、横から邪魔されるのを嫌っていることが、一番の理由だろうけれど。
 事実、ぼくがキーボードをカチカチ鳴らすと、「うるせぇ」と物を投げられるので、ぼくは黙ってヴォルトの行動を見下ろしていた。
 ヴォルトはまず、ぼくのラボを片っ端から探り、ずいぶん前に“ぼく”を造ったときの残り物をかき集めていた。
 幸い、いくつか代えのパーツがあったから、部品もひとつひとつ一から造り直すなんて、途方もない作業は免れた。
 ヴォルトはうんうん唸りながら、まるでジグソーパズルのように、ぼくの残り物をくっつけている。
 時々、自分の体をじっと見つめる。自分の体の中を透視しているんじゃないかと、ぼくは思った。
 ヴォルトに“ぼく”を造ることなんて、できるのかな……。一番心配なのは、ヴォルトが自分の体を見ているために、ぼくがヴォルトのサイズになってしまうことだ。いや、この際それはどうでもいいや。
 もし、ヴォルトと同じく炎しか使えなくなったらどうしよう。ぼく、火だけは苦手なのに。
 いっそ、害のない普通のロボットにしてくれないかな……。
『ヴォルト、ねぇ』
 ぼくは出来かけの腕を投げつけられるのを覚悟して、キーを打った。
「なんだよ」
 ヴォルトは振り返らないで、唸るように言う。
『ねぇ、ぼく、何か出来ることないかな』
 ぼくは物が飛んでこないことを確認して、素早く打った。
 すると、ヴォルトは振り返らないで、答えた。
「うるせぇ。忙しいんだ」
 きっぱりと断られた。
『わかった。黙っているよ』
 ぼくはそう打って、すぐに消した。
 ヴォルトは時々雄叫びをあげてひっくり返ったり、「こいつを造った公司なんて、捻り殺してやる!」なんて恐ろしい言葉を叫びながらも、着々とぼくを造り上げていく。
 体の大部分ができた頃、ぼくの中にあったぼくの設計図面と、ヴォルトが造っているぼくを比較してみたら、ぴったりとサイズが合ったので、ぼくはほっとした。
 ただ、ちょっとヴォルトのぼくのほうが、指が長い。残ったパーツの関係だろうけど、まぁ、いいや。
 あぁ、そうだ。この設計図、まとめてヴォルトに渡せばよかった……。
 でもいまさら渡したら、絶対ぼく、本体まで叩き壊されるな。
 うん……やめておこう。

 それから三日間、ヴォルトはぼくを作り続けた。
 機動しっぱなしのぼくの本体が、そろそろ限界の唸りをあげてきた頃、やっとヴォルトが歓喜の叫びをあげた。
 ぼくはそれに驚いて、プツン、と画面のスイッチを入れる。
『できたの?』
 素早く表示したぼくの言葉に、ヴォルトは輝く笑顔を見せた。
 ずっと真っ赤だったヴォルトの瞳は、ようやく元の茶色に戻っている。
「できたぜ! 上出来だ!」
 ヴォルトは腕に一体化するように巻きついたコードの束を素早くほどき、ぼくに駆け寄った。
「感謝しろよ。完璧だぜ」
 そして、いつも通りにやりと笑う。
 ピリピリした感じがなくなってよかった。
『うん。ありがとう』
 ぼくはそう打った後に、すぐにまた文字を打った。
『ぼくの体、見せてよ』
「なんだよ。もう少し、感謝しろよな」
 ヴォルトは不機嫌そうにそう言いながらも、満足そうな表情をできたての“ぼく”に向けた。
 ヴォルトはふらふらと作業台へ向かい、ごちゃごちゃしているぼくの体の周りのものを退かす。
 作業道具や残りものの残りものが、ガチャガチャと音をたてて床へ落ちていく。
 そして、出来上がったばかりの“ぼく”を見て、ぼくは思わず、わけのわからない文字を画面いっぱいに表示した。
 その後すぐに、倍角の文字でヴォルトに精一杯の感謝を表す。巨大な緑の文字のせいで、一瞬部屋が明るくなった。
『すごいや! ヴォルト!』
 作業台の上には、サイズや体重、性能までバッチリの、できたてのぼくの体が置いてあった。
 やっぱり少し、指は長いけれど。
 ヴォルトが、自信満々にぼくを見上げている。
「やれば出来るもんだろ。知ってたか? お前たち全員の設計図は、俺の中に入っているんだぜ」
 ヴォルトはにやりとして、ぼくの腕を持ち上げた。
『そうなの? ぼく、ぼくのことはぼくにしかわからないと思ってた』
 ぼくは驚いてそう打つ。内心、ほっとしたけれど。
 だって、後で正直に「ごめん、本当は設計図があったんだ」なんて言ったら、ぼくは確実に粗大ゴミ行きだ。
「GX全員の設計データは、俺が管理しているんだ」
 ヴォルトはそう言いながら、ぼくの腕をさらに持ち上げ、関節を折り曲げて見せた。
「接続部も完璧だ。関節もちゃんと曲がる。回線もバッチリだ。皮膚も、どこから見ても人間のものにしか見えない。こればっかりは、開発した奴に賞賛を送るよ。ちょっと、前のほうの回線がグチャグチャしていたから、回線を短くしたところもあるが、まぁそこはいい。ちゃんとつながっているからな。それに、苦労したのは頭の中だぜ。部品がまったく足りなかった。このラボの中では足りなかったから、わざわざバリケードを崩して造りかけのティーマの部品を盗みに行った。気づいたか、お前? 頭はメンテナンスでも取り替えることはないからな。まぁ、ばれないだろう。誰かがなくしたんだと思うさ。ただちょっと、ティーマのように能天気になるかもな」
 ヴォルトはすらすらと今までの功績をぼくに告げ、自慢げにまたぼくの画面を見上げる。
「どうだ。お前から見ても、なかなかなもんだろ?」
 その問いかけに、ぼくは、『ううん』と答えた。
 ぼくの答えに、ヴォルトは顔を顰める。
 ボルトやナットが飛んでくる前に、ぼくはすぐに文字を打った。
『前なんかより、ずっとスムーズに動けそうだよ!』



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