020
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「あぁ、よくやった。確かに全滅しているな」
 いつもの暗い部屋で、ぼくは、あの太い声を聞いた。
「はい」
 ぼくは、にっこりと笑う。
 何を、笑っているんだよ?
「ティーマも、よくやったぞ。いい子だったね」
 可愛くて仕方がない愛娘を、猫撫で声で、お父様が褒める。
「うん! ティーマ、できたよ! ティーマ、ティーマ、いい子!」
 ティーマがぼくの隣で、嬉しそうに跳ねている。
 今までやってきた、“お仕事”を褒められて。
「さぁ、部屋へ戻ってお休み。褒美の菓子を用意させた。甘いフルーツゼリーだ。クリームのたっぷりのった。好きだろう?」
「フルーツ、ゼリー! ティーマ、大好き!!」
 ティーマ嬉しそうに跳ねまわり、踊るように喜びを全身で表わすと、大きな音をたてて部屋を出て行った。
「さあ、お前もお帰り、疲れたろう」
「はい、失礼します」
 ぼくもそう言って、いつものように頭を下げると、大きな扉を、閉じた。
 勝ち誇ったような不気味な高笑いが、扉の向こうから聞こえてくる。ぼくは、背を向けた。
 遠くで、ティーマがぼくらの部屋のドアに体当たりをする音がする。
 きっと今にもテイルに自分の功績を話して、「偉いですわ!」とぎゅっと抱きしめてもらうんだろう。
 ぼくは、あの部屋には行きたくない。――そんなことを思った。
 地下三階に……皆に、会いに行こう。
 誰かに、謝りたい気分なんだ……。


 ぼくの足音が、コンクリートの壁に跳ね返って響く。
 ついさっきまで右腕で武器の形をしていた氷の塊が、ポタポタと水滴になって落ちていく。
 指の感覚がないよ。
 さっき、頭を打たれたときに、回線がやられちゃったのかな。
 別に、治す気にもなれない。
 一つ目の牢屋が見えてきた。
 そっと明かりをつけて中を覗くと、端っこのほうで、大いびきをしているランスさんが見えた。
 大いびきができるほど、元気になったんだ……大きく上下するぽっこり出たお腹を見て、ぼくは、なんだかほっとしたような気分になった。
 そしてまた、牢屋の中を見て回る。
 皆、眠っているようだ。ここでは時間が経つのもわからないから、寝る時間が昼間だったり夜だったり、体の時計が狂っていると、マルシェさんがぼやいていたっけ。
 だから暗闇でも光る時計を用意したのに、どうやら誰も見ていないようだ。
 そして、最後の牢獄。マルシェさんの居る場所だ。
 中は真っ暗だ……。ろうそくも残っているのに、火が点っていないということは、眠っているのかな。
 ぼくは少し残念だったが、起こす気にもなれず、振り返って帰ろうとした。その時、

「おい、お前か」

 マルシェさんの声が聞こえてきた。



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