010
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 ――ぼくたちは、公司館に連れ戻された。
 ふわりとした風に乗せられて、公司館のてっぺんに着地する。
 テイルと、オレンジ色の短い髪をした若い女性が、ぼろぼろのぼくらを心配そうに迎えた。
「あんたたち、一体何をしていたんだい」
 腰に手を当て、仁王立ちするオレンジ色の短髪の女性が、きつい口調で話しかけてくる。
「……久しぶりだね。マーシア」
 ぼくは弱々しく微笑んで、軽く頭を下げた。
 マーシアはぼくをじろりと睨み、ぼくの肩を叩く。
「ふん。あんたは相変らず、女々しいね」
 華奢な外見とは裏腹に、マーシアは結構きつい。
 辛口なあいさつにぼくは苦笑いし、見た目より強烈なスキンシップに肩を沈ませた。
 ヴォルトはまだむっつりと唇を結んだまま、違う方向をむいている。
 ぼくは、いつもなら「まったく、これだからヴォルトは」なんてため息をつくのだが、今はそんな気持ちにはなれない。
 マーシアはだいだい色の大きな目で、ヴォルトをじっと見つめ続けている。
 何も言わず、ヴォルトのほうから事情を話してくるまで、待っているのだ。
 しかし、ヴォルトも頑固者だ。腕を組んで、むっつりと顔をしかめたまま、まったく動こうとしない。
「……まったく」
 ついに、マーシアのほうが折れた。
「あたしに見えていないとでも思っていたのかい? お前たちが何をしていたか、もしお父様に知られたら、一体どうなると思っていたんだい」
 マーシアが、再びぼくを睨みつける。
 ぼくは答えることができずに、ただ肩を落とした。
「ごめん……」
 それしか言葉が出せなかった。
 ぼくはそのままうつむいて、ヴォルトのように黙り込んだ。
 マーシアもじろりとぼくらを睨み、不機嫌そうに口をへの字に曲げる。
 やがて重たい沈黙の中で、テイルが恐る恐る声を発した。
「あ……あのう……」
「なんだい?」
 マーシアが返事をする。
 ぼくも顔を上げた。
「そろそろお二人は、中へ戻りませんと……お父様に叱られてしまいますわ」
 テイルは少し怯えた様子で、ヴォルトのほうを伺いながらそう言った。
「お前は、またそればっかりなのか」そう言うヴォルトの声が聞こえてきそうなところだが、ヴォルトはまだむっつりとしたまま、文句も言おうとしない。
 ピクリとも動かず、何を言われても返さず……――さすがに、ちょっと様子がおかしい。
 ぼくはじっと向こうを向いているヴォルトを、そっと覗き込んだ。
 ヴォルトは眉間を寄せたまま、ただ一点だけを見つめている。
 茶色の前髪に隠れた琥珀色の目は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
 これは、ぼくたちが力を集中して使っているという証だ。透視をしたり、強いPK(サイコキネシス)を使ったりするときに、目の色が通常から赤に変わる。
 今はヴォルトのどこにも特殊能力の炎は見当たらないから、何かを聞いているか、何かを見ているのか、何かを動かしているのか……。
 一体、何を見ているのだろう……?
「……ヴォルト?」
 ぼくはそっと話しかけてみた。しかし、ヴォルトは動かない。
「ヴォルト、……ねぇ、ヴォルト」
 ぼくは不安になって、ヴォルトの肩を揺らした。
 すると、ヴォルトが顔を上げた。目の色が明るい茶色に戻っていく。
 ぼくはほっとして、体勢を元に戻した。
「なんだい?」
 マーシアがそんなぼくらに気づき、ぼくらに甘いテイルへのお説教を中断した。
 通常に戻っても、ヴォルトはまだ、黙ったままだ。
 マーシアは、やれやれとヴォルトから視線を外し、代わりにぼくをぎろりと睨みつけた。
「今回の無断外出は、見なかったことにしてやるから。さぁ、早く中へ」
「うん……ありがとう」
 ぼくは弱々しく微笑み、マーシアの言うとおり、中へ続く扉に向かった。
「ほら、お前もだよ!」
 マーシアが、ヴォルトの背中を叩く音がする。
 その時、「いてっ」と、ヴォルトがようやく言葉を発した。
 ヴォルトはぼくの隣に押し出され、不機嫌そうにポケットに手を突っ込む。

「……ヴォルト、ごめん」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、ぼくはぽつりと呟いた。



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