008 ――もしも、大切な人が、突然、消えてしまったら。
だれかに、壊されてしまったら。
人は、どう思うのだろう。
「お前、それを自分でやっていることに、気づかないのか?」
ヴォルトに言われたその言葉が、ぼくの人工頭脳に突き刺さった。
その意味さえ、突然で、まだよくわからないのに。
なぜか、なぜか、
怖くなった。
「え……?」
ぼくは聞き返した。
頭が熱い。
「お前が、それをやっているんだ」
歯を食いしばったような、ヴォルトの悲痛の声。
頭が熱い。
焼けつくように痛い。
「……え……?」
ぼくは、また聞き返す。
ぼくの声に、ヴォルトは深くため息をつき、立ち上がった。
眉間に寄せられたしわが、ヴォルトの表情を深く見せる。
「……お前たちが、“お仕事”とやらで“退治した”人間たちには、家族や、友達が、なかったと思うのか?」
静かな言葉ひとつひとつに、ぼくの胸部が、なんだかさわがしく動く。
それは、どういう意味だ?
ぼくは、お父様の命令で、“政治”や“世界”の邪魔になるものを、消してきた。
だって、お父様に逆らったんだ。この世界の支配者であるお父様に、悪いように反抗したから……
邪魔になるものを……壊したんだ。
そのものたちにも……。
――すべてが、繋がった。
ヴォルトの言いたかったことを、すべて理解したぼくは、一体、どんな顔をしているのだろう。
例えられないような恐怖が、ぼくを猛スピードで襲ってくる。
「いやだ、そんなの」
「……許さない」
さっき、ぼく自身が言った言葉が、自分に突き刺さる。
「許さない」
ぼくも、そう思われているのだろうか。
「許さない」
……思われているんだ。
ぼくは、人を殺しました。
それは、いけないことだったんだ。
お父様は、正しくなかった。
ぼくは、すべてを悟った。
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