第七章 紅茶伯爵とオータム・ガーデン なんとか、二つめの季節までは取り戻すことができた。しかし、四季はまだ半分も狂っている。
ダージリンとニルギリの二人は、猛獣テディ・ベアに襲われた衝撃で息を切らせながらも、早速次のオータム・ガーデンの扉に向き直った。
秋の庭、というだけはあり、扉は立派な枯葉色。しかし、ドアノブを回して扉を開けると、庭そのものはまったく秋ではない。
さっき見た時とちっとも変わっていない。青々と生い茂る木々の並ぶ、立派な夏の庭だ。
「さて……次はどうすればいい」
ダージリンは鮮やかな草花を見渡しながら、自分自身に問いかけた。
ニルギリが先に秋の庭へ入り、足元に生えた芝生を撫でている。ダージリンも秋の庭へ踏み込むと、まず先に目に入ったものがあった。
生き生きとした緑色の世界に、ぽつんと白のテーブルセットがひとつ置いてある。そしてそのすぐ側に、小さな椅子と描きかけの水彩画を立てたキャンバスがあった。
伯爵が描いたのだろうか。なかなかの腕前のそれは、この狂った秋の庭を描いたような、夏の森の絵だ。
ダージリンは青空の広がる頭上を見上げ、どうすればいい? と伯爵へ問いかけようとした。しかし、すぐに「それは自分で考えないとね」という伯爵の言葉が頭に浮かび、ぐっと口を閉ざす。
どうせ、聞いたっていいアドバイスはくれないに決まってる。ニルもあの様子ではさすがの知恵も出てこないようだし……ここはひとつ、自分で考えてみよう。
ダージリンは小さな花を触っているニルギリの側を通り、白いテーブルセットへ歩み寄った。
そして椅子へ腰を降ろし、改めて夏色の秋の庭を見回す。
まるで森の中の小さな空き地に居るようだ。庭を囲む木はすべて猛々しく大きなものばかりで、これから枯れ果てたじいいやばばあなどになる気など、一切ないぞと言っているよう。
その時、扉の近くで花を摘んでいたニルギリが、跳ねるように立ち上がってこちらを向いた。
「ダージリンさんのお願いって、何ですか?」
そして小さな花束を手に、あっけらかんとそんな質問をしてくる。
その問いかけに、ダージリンは少し顔を顰めた。しかし、こんな澄んだ空気の中に居ては、むっつりと無口を決め込む気分にもなれない。
答えを待ち、ニルギリが真っ直ぐに見つめてくる。ダージリンはテーブルに肘をつき、ためらいがちに口を開いた。
「その……夢が……あるんだ」
「夢って? 将来の、ことですか?」
「うん。その……医者に……なりたいんだ」
ダージリンは靴のつま先を揺らしながら、どこか照れくさそうに小さく呟いた。
独り言のようなその声が届いたのか、「素晴らしいですわ」とニルギリが微笑む。しかしダージリンは肩をすくめ、首を横に振った。
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