第零話 プロローグ あの頃の僕は、何度も聞かされたその言葉の意味が、まだよく理解できなくて、
何度も、何度もメイファに質問をした。
よく晴れた日の朝は、必ずメイファは庭へ出る。
大きなかごにたっぷりの洗濯物を抱えて、石けんのいい香りを森じゅうにふりまきながら。
「メイファ、ねぇ、メイファ」
「なあに、ロビン。まだお洗濯が終わっていないの」
その頃のメイファは、僕がうんと首を持ち上げないと覗いてもらえないぐらい、大きくて眩しくて、太陽みたいな存在だった。
だけどいくら眩しくたって、一日一度はこの質問をしなければ、どうしても落ち着かなくて。
気を引こうとメイファの前掛けを引っ張りながら、僕はお約束の質問をする。
「どうして僕はみんなといっしょにいられないの? 森の外にはなにがあるの?」
もう毎日のやり取りにうんざりしていたっていいのに、メイファいつだって手を止め、ちゃんと僕の目線と同じになるまで屈んでくれた。
若い義母は僕の手をそっと握り、優しい瞳で僕を見つめて、いつものように、変わらない答えを言う。
「いい? ロビン。あなたは特別なの。とても、とても特別な存在なのよ」
あれから僕は、何一つ大きな怪我もせず、すくすくと成長した。
いつしか、気になってしょうがなかった質問も、僕の中からうっすらと消えさり、
そろそろ旅立ちの時を迎えようとしている、十三歳、最後の月――。
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