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エメラルドウィッチと魔法の花冠 



エメラルドウィッチは悪い魔女だ。
エメラルドウィッチは善い魔女だ。
世界に色が様々あるように、かの魔女に対する世間の意見も多種多様であった。

「ごめん、なさい」

ようやく泣きべそを引っ込めた少年は、そばかす顔を拭ってしゃくりあげた。
汚れた裾で拭ったため、涙に濡れた顔に泥がつく。
擦りむいた膝小僧の手当てを終えた魔女は、裾を叩いて立ち上がり、少年の頬を拭ってやった。

「そこはお礼を言うべきじゃないかしら」
「僕…僕、緑の魔女は悪い魔女だと思ってた」

正直に言うと、魔女はふふっと笑い、「よく言われる」と言った。
昔から、優れた魔法使いに与えられる名誉ある色の称号、ファルベエーレを得た者は、人々に尽くすことを義務付けられる。
しかしエメラルドの称号を得たかの魔女は、助けを求める手を振り払い、自分勝手に力を使った。
時には気に入らない王様をお城に閉じ込め、時には怪物たちを村にけしかけ、世界中のあちこちに気まぐれに姿を現しては、人々を困らせることを楽しんでいた。
手当ての様子を遠巻きに見つめていた行商人たちの一行は、そういった噂話を鵜呑みにしていたのだろう。
自分に向けられた怪訝そうな視線に、魔女はやれやれと肩をすくめた。

「ほら。もう、行きなさい。あなたを食べるつもりだと思われてるわ」
「うん。でも、僕、何もお礼をしていないよ」
「魔法使いは人々のために魔法を使うもの。そう教えられたんじゃない?」
「うん。でも…そうだ、それじゃあ次に僕らの村に来た時、何かお礼をさせてよ。僕の家に泊めてあげる」
「あいにく、私の旅はここで終わりなの。もう、あなたの村を訪ねる機会はないと思うわ」
「それじゃあ…それじゃあ、僕、緑の魔女は、善い魔女だってみんなに言うよ!転んだ僕の擦り傷を治してくれた、とっても善い魔女なんだって」

そう言うと、魔女は少しだけ、照れくさそうに微笑んだ。

「何よりの恩返しね。さぁ、行きなさい」
「うん。…あ、そうだ」

少年は腰を下ろしていた草むらにもう一度屈み、すぐに振り返った。
そして魔女に身を屈めるよう指示し、その耳元にそっと、小さな贈り物を差し込む。
日の光を浴び、きらきら光る白髪の横に、露をつけた若葉が揺れていた。

「善い魔女の印だよ」

少年が囁き、大きく手を振って別れを告げる。
小さくなっていく背中を眺めながら、魔女はそっと、耳元の若葉に触れた。
若葉はみるみるうちにつるを伸ばし、魔女の白髪を取り囲んでいく。
少年が最後に振り返った魔女の姿は、まるで若葉と露の宝石の冠をつけた、美しい森の女王のようだった。


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お題:終わりの前に、色(緑)
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

メイファ隠居直前のお話。




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