参.


「おはようございます! おはようございます!」

翌朝、斜面を転がるようにして小僧は再びやってきた。
持ってきたものは金の盃だ。龍真の字で「牛鬼に」と書いた走り書きと共に見つかったという。箱は窓から出せなかったため、一揃いの盃とその走り書きを懐に入れてやってきた。
目を爛々と光らせて小僧は儂の反応を待っていたが、海に向かってぽいと盃を放ると、項垂れて帰っていった。
これで懲りれば楽だったろうに、その翌日も小僧はやってきた。
今度は巻物だ。「綺麗な女の人がたくさんかいてあるから」という理由らしい。一笑してその場で燃やしてやったが、子供ながらにその結論に至った点は愉快だった。
小僧は本当に欠かすことなく毎日やってきた。約束通り、どんな物にも小僧なりの理由を添えて持ってくる。いちいち相手をしてやるのは面倒でもあったが、その子供らしい突飛な考えや、実に人間らしいくだらぬ理由を聞くのは、それなりに退屈凌ぎになった。
ある時は、朝に一度顔を見せた後、また訪ねてきたこともあった。
その時は弁当箱を持ってきた。小僧が差し出す間もなく、龍真がそんなものを贈るかと突っ撥ねたが、小僧は「いいえ」と首を振った。

「これは、僕からです」

中にはたったひとつ、握り飯が入っていた。弁当箱を激しく振ってきたせいでずいぶん不格好な握り飯だ。小僧は散らばった飯粒を集め、それを半分に割ると、「はい」と片方を儂に差し出した。

「これは何のつもりだ、小僧?」
「今日のお昼はトミがいなくて、僕はご飯をひとりで食べたんです。ぜんぜん美味しくありませんでした。その時、きっとあなたが人間を食べるほどお腹が空くのは、いつもひとりで寂しいからだと思ったんです。だから一緒に食べましょう」

何を言い出すのやら。腹を抱えて笑うと、小僧は膨れっ面をしていた。

「それでこの儂の腹が満たされるとでも思ったのか? 目出度いやつよ」
「足りませんか? お夕飯が食べられなくなるからって、トミが一個しか作ってくれなかったんです……じゃあ、僕の分もあげます」
「いや、いい。それを寄越せ」

小僧から受け取った握り飯は、爪の先ほどの量でしかない。米粒のようなそれを口に放り込むと、小僧も残りを一口で頬張った。

「お腹の足しになりましたか?」
「ならんな」
「じゃあ明日も持ってきます。明日はもっといっぱい持ってきますから、僕と一緒に食べましょう」
「余計なことをするな。あまり煩わしいと、親より先にお前をつまみにするぞ」
「じゃあいいです」

小僧は慌てて弁当箱を片付け、兎のように駆けていった。





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