(静雄視点)


毎日、高利貸から女遊びの為に借金をしまくった馬鹿みたいな奴ら(俺には全く理解できない)から、その金を取り立てる。
もちろん返済出来ない奴にはそれなりの制裁を加える訳だが、最近は茹だるような暑さのせいで俺の血管がぷちん、と音を立てるまでが異様に短くなっていた。
実際、暑さに対してキレたところでどうにもならないのだけれど。

あいつに初めて出会ったその日は特に天気が良くて、空には夏らしい入道雲が広がっていた。



「ちょっと、そこの取り立て屋の若い旦那さん。俺とお茶していかない?」

昼休憩をもらい、ちょっと甘味屋にでも入ろうかと思ったときに、漆黒の髪に漆黒の着流しを着た男から声をかけられた。

「…暑くないのか?」

「え、そこ?まぁいいや。ほらほら、座って座って!」

俺は暑くて袖口を肩まで捲くり上げてるっていうのに、なんでこいつは着崩さないまま涼しそうな顔で餡蜜なんか食ってやがんだ?なんて思い一瞬苛立ったが、悪そうな奴ではなさそうなのでどうせ店に入るつもりだったし、と勧められたまま、そいつの横に座った。

適当に蜜豆を頼んだところでよくよく考えてみると、男の大人二人が並び、餡蜜や蜜豆を食べているのはいかがなものか…。

「君、平和島さんでしょ。平和島静雄。」

ぼんやりしていたら、もくもくと餡蜜を食べ続けていた隣から声が掛かった。
どうやらこいつは俺の名前を知っていたようだ。

「ああ…そうだけど。手前は?」

ここら一帯に住むか、仕事をしているかなら俺の名前を知っていてもおかしくはない。
自分でもそれなりに派手な金の取り立ての仕方をしている自覚はある。
俺は今まで俺の名を知っている奴から好意をもたれたことが皆無で、わざわざ接触してきた奴らは大概、救いようもない程にどうしようもない輩ばかりだった。

しかし、こいつはそんな奴らとは明らかに毛色が違う。
後ろ暗い雰囲気もなく、身なりもしっかりしているので浮浪者という訳でもないだろう。

それになにより、男であるのが勿体ない程に―――綺麗だ。

声をかけられた時には気付かなかったが、珍しい紅い硝子玉のような瞳に、目鼻立ちはすっきりとして、全体的に線の細い体つきをしている。

(なにを考えてるんだ、俺は…。)

「はいはい、お待ちどう様。蜜豆ね。」

ちょうど俺の思考を遮るように甘味処の店員が蜜豆を持ってきてくれた。
半分透き通った寒天がなんとも涼しげな雰囲気を醸し出している。

とりあえず赤エンドウ豆と蜜をすくい、一口食べたところで隣のやつはこちらを向き、うっすら笑って口を開いた。

「俺は折原臨也。君の噂はいろいろ耳に入ってくるよ。臨也と呼んでくれて構わない。」

「そうか。」

「実は結構前から君のことは気になっていてね。だから今日こうして待ち伏せしていた訳なんだ。」

「手前、変わってんな。普通なら近付こうとしない。」

「うん、変わってるなんて俺にとっては褒め言葉でしかないよ。」

「…」

実に楽しそうに話す臨也は先程の餡蜜だけでは満足していなかったらしく、さっき俺に蜜豆を運んでくれた店員を呼び付けて三色団子を一皿、注文する。
男で甘味好きと言うと、男らしくないだとか女みたいだとか言われることが多いが、こいつが甘味好きでもなんというか…中性的な外見と噛み合う気がして、むしろ納得してしまう。

「それでさ、静雄さん。」

「、あ?」

思考の海に沈んでた俺は気付かれない程度だと思うが、一瞬、反応が遅れた。

「提案…いや、お願い、かな。俺の相方になってくれない?」

「相方?」

今程運ばれて来た三色団子をもっちゃもっちゃ、と幸せそうに食べていた臨也は打って変わって、いきなり真剣な表情をして顔を寄せ、しっかりと目を見つめてくる。
鋭く光る紅い瞳に、思わず息を飲んだ。

「そう。実は今、俺のことを護衛してくれる人を探してるんだ。できれば君みたいな人がいてくれると有り難いんだけど。どうかな?勿論お金はちゃんと払うよ。そうだな…、今の君の賃金の三倍出すってことで。」

ただの珍しい大人びた、変わった奴だと思っていたが意外とそうでもないらしい。
今の話を聞いてわかったのは臨也が相当な金持ちで、相当闇に近い、危険な仕事に就いてるということだ。
いくら鈍い俺でも流石にわかる。

(漆黒の着流しの意味はそういう意味…か)

店員が俺らを赤い顔をしつつも遠巻きに見ているのに気付き、どうしてだか気恥ずかしくなった俺は急いで臨也から目線を逸らして体を引くと、何故か少し残念そうにしながら臨也も体を離した。

「返事は急がなくてもいいよ。答えが出たら、そこの角を曲がった所にある宿屋の三階、一番奥の部屋に来て。今日みたいに出歩くこともたまにはあるけど、大概は部屋にいるはずだから。」

「わかった。考えてみる。」

「よろしく頼みます。」

けらけらと笑った後、じゃあまたね、静ちゃん、と手をひらひらさせ、臨也はまだお天道様がじりじりと照り付けているであろう、店の外へ出ていった。

(…静ちゃんなんてふざけた名前で呼びやがって)

最後に店員から一杯だけ夏仕様なのかわからないが、ぬるくなったお茶をもらって、俺も臨也の後を追うように俺も外へ出る。
そろそろ休憩時間もお終いだ。
何気なく左を見ると今の仕事で相方を組ませてもらっている先輩の田中さんが遠くから歩いてくるのが見えた。

「おー、静雄。行くぞー。」

「はい。」

少し色黒で変わった髪型をしている田中さんは見た目だと少し恐いが本当はとても気のいい人で、にかっと笑うと一気に印象が優しくなる。

「本当はこんな仕事じゃなくて、静雄にはもっといい仕事に就いてほしいんだけどなぁ。お前、いい奴だし。」

そして二人で歩きだし次の取り立てへ向かう途中で田中さんが呟いた言葉は、まるで俺の背中を押すかのようで。

明日、臨也に会いに行ったらどう返事をするか、俺は思考を飛ばした。








「臨也、いるか?」

「は、はい!」

「いつから来ればいい?」

「……っえ、?」

「護衛だろ?」

「え、なっ、なに護衛、してくれるの?」

「ああ。」

「…お、ねがいします。」





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本当は臨也さん、かなり精一杯でした。
静ちゃんと呼ぶなんて心臓が破裂しそうなくらい、必死でした。

どうにでも、(江戸パロ)企画様へ提出させていただいた話です。


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