(臨也視点)


あーあ。

いやだいやだ。



ここんとこ2年間、俺の思考を占拠し続けているのはシズちゃん、つまり平和島静雄だ。

もともと新羅の紹介で知り合った訳だけど、初めて会ったときにいわゆる一目惚れ、をしてしまった。
まぁ実際、人が人を好きになるのには1秒も必要ないらしいからもっともと言ってはもっともな動きを俺の脳がしたらしい。

でもそんなこととは関係なく、シズちゃんと俺は殺し合いをする仲になっちゃったもんだから、普段から口の悪い彼は殺すだの死ねだのと結構酷い言葉を俺に浴びせかけてくる。
そんなことじゃ傷つかないとでも思ってるんだろうけど、さすがに好きな人から毎日顔を合わす度に言われるのは少なからず、胸に小さな痛みを感じるんだよこれがまた。

自分でもまだ痛みを感じる部分があったんだって驚いたけど。


てなことで、もういっそのことこの持て余してる気持ちをシズちゃんに告げちゃえばすっきりするんじゃないか、なんて結論に至った。

さんざん俺の心を無意識に傷つけてきた憎く愛しいお馬鹿なシズちゃんには、特別な俺の愛を、特別に教えてあげる。



「いーざぁーやぁーくぅーんんんんんん!?」

「あっれー?
今日は特別早い登校じゃないの!
シズちゃん!」

朝、いつもと同じように顔を合わせただけで眉間に深い皺を寄せたシズちゃんは、自分の机の上を見た瞬間に教室の扉を取り外し掴んで、走り出した俺をオリンピックの記録を塗り替えられるんじゃないかっていうくらいの全速力で追ってきた。

「今日こそはブッ殺してやらぁぁあああああ!!!」

今日の怒りがいつもの3割増しなのは、俺がふざけて(いたずらで)シズちゃんの机にピンクや白、黄色などのチョークで可愛らしくレタリングした「ブラコン」落書きがお気に召さなかったかららしい。

結構時間かかったんだけどなー、なんてしょうもないことを考えながら屋上へ向かう階段を駆け上がる。


これまた大きな音を立てて壊された今日の被害者ならぬ被害扉の2枚目を踏んづけて、屋上のフェンスに体を預けてる俺を睨んでくるシズちゃんは、今にもこめかみの血管がブチ切れそうだ。

「ここまでお疲れ様、シズちゃん。」

「っ、はぁ、…どういうつもりだ、臨也。」

ああ、また眉間の皺が増えちゃって。

まったく血の気が多くて毎回俺困っちゃうよー。


なーんて、全て思い通り。



「なんのつもりもなにもないよ。

ただ、シズちゃんに愛を伝えようと思ってね?」

「………は、」


「全人類を平等に愛してた俺の愛を、君ひとりにささげてあげるって言ってるの」


俺の言ってることが理解できないのか、それとも驚きすぎて声が出ないのか判断がつかないけど、さすがに20秒経ってもまったくシズちゃんが動かなかったらこっちも不安になってくる。

「あのー、シズちゃん?」

「…か、」

「なになに?」

「それは本当のことかって聞いてんだよ!」

「わっ!」

かなり近づいて聞いてたからいつもならまずありえないけど、いきなりのシズちゃんの怒声に近いような大きい声にびっくりして後ろに倒れそうになっちゃって、やばっ、と思った途端―――…抱きしめられてた。


え、…なに、この状況。

あったかい。

どうゆうこと?



息をすれば、かすかに匂う煙草の香り。

腕を上に持ち上げれば、ごつごつとした背骨の感触。


そしてなにより信じられないのが、強く早く鳴る、鼓動の音。

もちろん俺のじゃない。

つまり、必然的に、シズちゃんのだ。


「な…にし、て、んの?」

「倒れそうになってたから助けた。」


必死に出した声はあまりにもかすれていて情けない。

しかもシズちゃんが答えてくれたのは答えてほしい方じゃないし。
いじめっ子のつもりなの?


やばい、泣きそう。
さいあく。


「ふぅっ…な、ん、っなの…。」

「え、あ…、えっと、…悪い。」


なんで、シズちゃんは謝るの。
なんで、抱きしめたままなの。
なんで、離さないの。


「うー…。」

「いや、悪いってのは、断るとかそういうんじゃなくてだな…。」

「…」

「あー、つまり!
俺はお前が好きなんだよ…!」



そんな馬鹿な。


普通好きな人に殺すとか死ねとか言わないよね?(俺は別として)

ましてや本気で暴力振るうとかありえなくない?


なのにシズちゃんは今、俺のこと、好きって言った。


「ほっ…ん、とうに?」

「おう」

「だって、シズちゃん、俺、のこと嫌いって…。」

「手前もそうだろうが。」


これじゃあ両思いじゃん。

とか思っても、すっきりすることしか考えてなかったからこれからどうすればいいのか分かんない。

そもそも、一人を特別に愛することなんて今まで1度もなかったんだ。


「…これからどうすんの。」

「…」

「ねぇ、」

「こんな時までうるせぇな、臨也。」

「ちょ、ひど!」


あまりの言い草に思わず顔をあげると、そこには耳まで真っ赤に染めたシズちゃんの顔があった。

嬉しそうな、悔しそうな、泣きそうな、そんな表情の。

不器用なシズちゃんも器用なことをするときがあるあらしい。

「っ!…見んな!」

小さな舌打ちをして、俺の腰に回っていた片方の手で顔を隠したシズちゃんがあまりにも可愛くて、胸の奥がむずむずした。


やばい、すごい好きだ。

俺ってシズちゃんに、ベタ惚れだったみたい。


「ねぇ、シズちゃん。」

「なんだ。」

「好きだよ、それもかなり。」


ぽろり、と俺が口から出した言葉を聞いてますます赤くなったシズちゃんにもう一度、力いっぱい(といってもこれは俺が感じてるだけで、実際に彼からしたら手加減してるんだろうけど)抱きしめられて、耳元にささやかれた。

それも、今まで聞いたことがないような、飛びっきり低く、甘い声で、ね。



「手前はこれから先、ずーっと俺に愛されてりゃいいんだよ。」





できない、
ふたりの







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