僕は岸谷新羅。 目の前に座っている黒い髪の毛の方が折原臨也、金髪の方が平和島静雄だ。 この二人とは小学校の頃に知り合って、それから高校の今にいたるまで、ながーい付き合いをしている。 いわゆる幼なじみっていうやつです。 その二人と今、昼休みを使って昼食をとろうとしてる訳なんだけど…。 「しーずちゃんっ。」 「今日の昼はなんだ?」 「うふふー!頑張ってシズちゃんの好きな甘い卵焼きと、アスパラのベーコン巻きを作ってみました!」 「おー!」 …バカップル? って、皆さん思いましたよね? 思いましたよね!? なのにこの二人、付き合ってないんですよ。 誰がどう見たって両思いなのに、お互いに自分の一方的な片思いだと勘違いしてる。 まったくもって、迷惑だ。 クラスメイトは全員昼休みになった瞬間に走って教室から出て行くし、昼休み中は本鈴が鳴る1分前になるまで帰ってこない。 まるで私一人に、すべて任せた!と言っているみたいに。 「じゃあ、いただきます。」 「うんうん、どーぞ!」 笑顔でお弁当(もちろん手作り)を差し出す臨也。 それを実に嬉しそうにもきゅもきゅ、と食べる静雄。 普通の男子高生はこんなことしないって、いい加減に気付いてくれないかなぁ…。 「どう?…美味しい?」 「うまい。」 「ほんと!?良かった!」 激しく乙女だ。 頬を薄桃色に染めた臨也は、まさに乙女という表現がぴったり当て嵌まりすぎる。 しかもそれを見た静雄は静雄で、臨也に見とれたまま、動かない。 「はぁぁあ……。」 おもいっきり大きな溜息をついて、二人を現実世界へ引き戻す。 こうでもしないと本当に、いつまでも、この調子なんだよ。 「っ!ほら、臨也も昼メシ食えよ、な?」 「う、ん、そうする!」 先に正気に戻った静雄に声をかけられてやっと、臨也も自分のお弁当を包みから出して食べ始める。 それによって漂っていた、あっまーい二人のラブラブピンクな空気は薄まり、先程までは無味にしか感じられなかった愛しい私のセルティお手製愛妻弁当の本来の味を舌が感じ取ってくれるようになった。 (しょっぱいんだか、甘いんだか、辛いんだか、苦いんだか、よくわからない味がする気がしないこともないんだけど、そんなのは僕の愛で全てカバーさ!) 幸せを噛み締めながら食べ進めているときに、そういえば臨也に聞かなくちゃいけないと思っていた用件を思い出した。 「ねぇねぇ、臨也。」 「なに?」 いつものことではあるんだけど…こう、あからさまに僕専用な冷たい態度をとられると、無駄に悲しくなるよ…。 「この間の傷、もう大丈夫なの?あれっきり一度も診てないからさ。」 「あ〜…、平気だよ。」 気まずそうにぼそっと言う臨也。 もしかして、今聞いちゃいけないことだった? 「…ん?傷?」 静雄が反応した瞬間にすごい勢いで僕は睨まれた。 やっぱり静雄の前で言ったのがまずかったのか…! 額を流れる冷や汗が止まらない。 「いや、あはは…1週間前くらいに臨也が脚を捻挫したんだよ。」 半分泣きそうになりながらもどうにか伝えると、静雄が箸を口から離し、机に置いた。 「し、シズちゃん?なんか嫌いなのあった?もしかして、まずかった?」 静雄の様子を見た臨也はお弁当になにか問題があったんじゃないか慌て始める。 でも静雄はそれを無視し、椅子に座っていた臨也の腕をひっぱって立たせ、自分は足元にしゃがみ込んだ。 「なに!?」 上履きと靴下をぽいぽいっと投げ捨てて肌に直接触る。 労るような触れ方は、見てるだけでむず痒くなるほど優しさに溢れていた。 わお。 「ちょっと、シズちゃん!や、め…っ!」 「俺だよな。こんな怪我させたの……。悪かった。」 「ううん、あれは完璧に俺の不注意だったし、謝らないでよ。もう全然痛くないし!」 「臨也…。」 安心したように、静雄が小さく息をつく。 臨也は散らばっていた上履きと靴下を身につけて、まだしゃがんだままの静雄に合わせて膝立ちをし、ゆるく静雄の首に両腕を絡ませた。 まぁ簡単に言えば、臨也が静雄を抱き寄せた、みたいな体制になった。 「大丈夫だよ、シズちゃん。俺は、絶対に、壊れたりしないから。」 「……ああ。」 今までずっと、自身の力をセーブできずに大事な人を傷つけてきた静雄は、近しい人間の怪我に対して過敏になってる。 いくら愛していても、結局は自分で壊してしまうんじゃないかと、怯えて。 臨也も臨也で、人に裏切られることの痛みを深く心に刻み、静雄とは違う種類だけど人間の動きに過敏だ。 だからきっと余計に静雄も臨也もお互いから離れられないんだろうな、と考えていたところで、暢気な予鈴が鳴った。 既に食べ終わって片付けを始めてる僕とは違って、目の前の二人はまだまだ食べ終わる気配がない。 これまでのパターンからして、もうこれは9割の確率で5限目のサボり決定。 「新羅、俺昼メシ食うから5限休むわ。」 「俺も!」 「はいはい。先生には見つからないようにね。」 「はーい!」 やっぱり。 また先生への言い訳を考えないと。 ……まぁ、でももう少しだけ、この二人に付き合ってあげようかな。 月並みの幸せを二人が手に入れるまで。 そして私は仲良く肩を並べて教室から出ていく二人を眺めながら、思った。 くっついてたらくっついたで今より大変になるかも…、なんて、平和で幸せに満ちたことを、ね。 合愛奇愛 (この出会いに感謝して) |