「あのさ、佐介」 「ん?」 「もし世界が本当に消滅するとしたら、どうする?」 「…は」 そんなことをいきなり佑助が言い出したのは、いわゆる恋人同士の時間を過ごした後、甘い余韻をまったりと感じていたときだった。 あまりにも突拍子がなく、どんな反応をすればいいのかわからない。 黙って佑助に抱きしめられたまま真っ白い天井を見つめいると、彼がうすく笑ったのを何故かふ、と感じた。 「特になにを聞きたいわけでもないんだけどな。 ただ本当に、この世界が消滅するなら、その時にオレは…いや、オレ達は何をしてるんだろって。 死ぬというか、自分が消える瞬間に何を思うんだろうって、さ」 肌寒さを感じながら考えると、最近テレビで騒がれている2012年の12月21日に地球が滅亡する、ということに思考が行き着いた。 (ああ、あれか) マヤ文明、の予言。 まさかこんなシチュエーションでそんなことを言い出すとは思いもしなかったが、普段から何を考えているのかよくわからない彼のことだ。 しょうがないなぁと思いながら、肩からズレ落ちそうなシーツを引き上げて、まだ掠れの残る声を出す。 「きっと佑助は、普段と同じように1日をすごして、ねむって、皆が気付かないうちに消えてるんじゃないか」 「うーん…そうなればいいけど…。 でももしオレがそんな穏やかな消滅を遂げたとしても、町や地球は静かに消滅するなんて、できないはずだ。 オレはどうすればいいんだろな」 唸りながらボクの腰にまわしていた腕を少し下げて、手持ち無沙汰だったボクの手に指を絡ませてきた。 (あったかい…、) 今さっきまで熱かったはずの掌は既にぬるくなっており、その体温がよく肌に馴染んでとても気持ちがいい。 「絶対に、すぐに死ぬことが出来ないで、苦しむ人だって出てくる。 だからきっとその人達を助けるために…いくら近い未来に消える命だとしても、オレはきっと助けに行くよ。 それで自分の命が失くなっても、本望だし…な、」 「…そんなことを考えないで、佑助は、なにか、したいことがあるなら、それをすればいいだけ、だろう?」 温もりでぼうっとしてきた頭をどうにか回転させ、言葉をつむぐ。 どんどんネガティブな思考へ走る佑助にとってボクの発言はブレーキだ。 これがないと、地に穴を掘れてしまうくらいに暗い話になっていく。 「…そうだな! じゃあさ、じゃあ佐介は最期の瞬間、なにをしてたい?」 頭を無理やり切り替えたのだろう佑助が先程よりもずっと明るい声で聞いてきた。 「ボクより、君は、どうしてたいんだ」 「佐介が答えてくれたら、オレも答えるよ」 (…卑怯な!) ボクがこの流れになると、どうしても先を聞きたくなるってわかっていて、あえてこうやって意地悪をするんだ佑助は。 「…知るか。 そんなことはそのときにならないと、わからないだろう」 少し不機嫌な声で答えると、ぎゅっと手を繋いでいるのと逆の腕で強く抱きしめられた。 「本当に?」 咄嗟に顔をあげると、吐息が唇にあたるほど近くに佑助のにやにやと笑みを浮かべる顔があり、一気に頬が上気するのを感じる。 「ほっ…本当もなにも、」 「…あははっ、ごめんごめん! じゃあ先にオレが答えるよ。 オレはね、その瞬間」 佑助は話しながら、さっきとはうって変わって目を細めた優しく穏やかな表情になり、 「佐介と一緒にいたい」 なんて、恥ずかしい言葉を吐いた。 部屋の肌寒い空気が気にならないほど、さっき赤くなったであろう顔だけでなく、身体まで一気に熱くなる。 (は、はずかしい…!) そんな自分を見られたくなくて佑助の腕の中で身体をよじるが、抱き込まれているせいで無駄な抵抗におわった。 ちゅ、と音を立てて耳に額に、頬に佑助の唇が触れる。 「な、にをっ!」 「そんなに驚かなくてもいいだろ。 だってオレにとって佐介は世界に一人だけの家族で、弟で、恋人、だし」 甘えるような声が鼓膜をゆらす。 なにか言おうと口を開くと、それに被せるかのようなタイミングで、佑助がまた話し出した。 「最期の最期の刹那まで、佐介の体温を感じていたい。 抱きしめて、キスして。 もしこの世界からオレ達の肉体がなくなっても、また違う世界で出会うまで、佐介を忘れないように」 聞いてるこっちは堪ったものじゃない。 必死で顔だけでも隠そうと、ボクの頬を撫ぜる佑助の指から逃げて枕に顔を埋める。 「ほら! オレが言ったんだから、もう言ってくれるよね?」 (最初からこれが狙いだったのか!) 今更気付いても遅い。 それなら、と勢いよく顔を上げ、びっくりした表情を浮かべている佑助に不意打ちのキスをして、こう言ってやった。 世界が滅びる、 というはなし 佑助と 同じ気持ちに 決まっているだろう! |