あ、今日も。

いつからかなんて覚えてない。
きっと些細なことからだったんだと思う。
自分でも気付かないうちに、彼を好きになっていた。

やさしい話し方だとか、
人好きする笑顔だとか、
誰にでも分け隔てなく接する心とか、
こちらに直接訴えかけてくる瞳とか、
耳障りのいい声とか。

嫌いな所を見付けられなくなるほど、好きになっていた。


でも彼はボクのことを『なんとなく反りが合わない、最近わかったばかりの弟』としか思っていないだろう。
断言できる。

そんな相手を好きになっても報われなくて、自分が辛くなるだろうなんてことは最初からわかってる。
わかってる、はずなのに、好きでいることをやめられない。
ボクの心がやめてくれないのだ。

まだ心だけが思い通りにならないならいい。
でも体まで思い通りにならず、授業中であろうと生徒会の仕事中であろうと、どうしても彼を探してしまう。





ある日の5時間目。

普段ならうとうと、と舟を漕いでいるクラスメイトを見てけしからん!と心の中で呆れたりするのだが、今日に限ってはボクも皆の仲間入りをしていた。

昨日はなかなか生徒会の仕事が終わらず、家に持ち帰り徹夜で作業をしていたせいで睡眠時間がいつもより3時間も少なかったからだ。

それに加えて満たされた胃袋、温かい日差し。
先生が古文を読み上げる音なんて…まぁ失礼だが、もはや子守唄にしか聞こえない。

かくんっ、と頬杖から頭がずれて机とぶつかりそうになったとき、外から体育をしている生徒の声が聞こえてきた。

体制を立て直し、どこのクラスだろうかと眠たい目を校庭に落とす。


ボクの教室は3階。
校庭まではそれなりの距離がある。
こんなに離れていて、広い校庭、しかも大勢の男子生徒が居る中、真っ先にボクの目に入ったのは−−−藤崎だった。

クラスメイトと楽しそうに話をし、笑顔を見せている。
(笛吹がこんなときまでパソコンをぶら下げているのはこの際無視だ)
鬼塚はあんなのでも一応女子なので体育は別らしい。

一発で藤崎を見つけてしまう自分を恨めしく感じつつ、普段は見れない授業中の藤崎を知れて嬉しくも感じる。

どこの乙女だ…。

そんな事が頭に浮かんでなんとも情けない気持ちになったが、結局は目を離せない。

高跳びの順番が回ってきて、スタートラインに立ち小さく深呼吸。
バーを見据え、走り出す。

宙をを舞った藤崎の体は綺麗な半円を描き、何にぶつかることもなく軟らかなマットに吸い込まれた。

周りから少しずつ拍手が起こる。
どうやら今までこの高さを跳べた者がクラスに居なかった様だ。
藤崎はぺこぺこ、と頭を下げて照れたように笑っていた。

さすが藤崎。
やはりあなどれん。


ふと時計を見るとボクが授業を放棄してから既に15分は経っており、そろそろ真面目に受けねばならない頃合い。
最後に一度だけ藤崎を見ようと視線を移す。


するとその瞬間、藤崎と、視線がばっちり重なった。

まさかこの距離で目が合うとは思いもしなかったボクはどうすればいいのかわからずに、ただ見つめ返していた。
向こうも同じ様に驚いたらしく、いかにも“え!”という顔をしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、両手を大きく降り始める。
あまりにも楽しそうに、嬉しそうにするものだから、不覚にも笑ってしまった。


近い距離で話しているときよりも、今までのどんなときよりも、会話をするお互いの距離は離れている。
でも心は、近い。


こんなことが起こってしまうから、君を−−−藤崎を好きでいることが苦しいだけではない、と。
好きでいたい、と思うんだ。


やっぱりどうやらボクは今日も変わらず、君に

をしているようです。