椿をオレの家に呼び、映画観賞をする。
夕飯はもちろん食べて行ってもらう。

これは最近忙しくてなかなか2人きりの時間がとれずにいたオレらが考えた休日、つまり本日のプランだ。





とりあえず朝起きてから朝食、身支度を軽く済ませ、椿の家まで迎えに行く。
今日の天気は雨ときどき曇り。
絶好のインドア日和だ。

本当はいちいち迎えに行かなくてもいいんだけど、一緒に同じ家に帰るのが嬉しいから毎回オレも椿もこうしている。
ど…同棲してるみたいだろ!


そんなことを考えているうちに見えてきた椿の家の前には、紺色の傘をさした椿がオレを待っていた。
今の時刻は待ち合わせ時刻よりも10分は早いはずだが、そこはさすが椿といったところか。

「おはよ」

「あぁ、おはよう」

短い挨拶をして、今度は2人でオレの家へ向かう。
途中でレンタル屋に寄り、いつもならアクションものを借りるけど今回は珍しく恋愛ものを借りた。

家にはすぐに着いたので、とりあえず椿にはオレの部屋で待っててもらい、オレは1階で飲み物を用意してから部屋に上がる。

DVDを既にセットしてくれていたので、2人並んでベッドにもたれ掛かってDVDを見始めた。



話の中身はまぁこんなもんだ。
ある日女性が町を歩いていると急な雨に降られ、雨宿りを余儀なくされる。
そこにちょうど男性が居り、雨宿りをしながら2人はぽつりぽつりと、今までの自分の話をしていく。
連絡先を交換し、何度か会っていくうちにお互いが惹かれ合い、恋仲になる。



アメリカ独特のなんとも濃ゆいラブシーンにさしかかって、オレ達の肩が同時に強張ったのがわかった。


なんとなく。
そう、刹那、なんとなく触りたくなっただけ。

いつの間にか近づいていた互いの距離を詰めるように、そっと手を伸ばしてテレビの方へ顔を向かせながらも俯いている椿の前髪に、触れた。

短く切り揃えられたそれは、本人とは違って素直にオレの手をすり抜けていく。

本当に真っ黒だな、と思っていると薄暗い中ゆっくりと椿がこちらを見た。
その瞳は少し揺らぎ、少しの悲しさと喜びが混ざった色をして−−−まるでオレを誘っているかのよう。


欲求に素直に従い、目を伏せた椿の薄い唇にキスをした。


静かに瞼をあげて椿はふわり、笑う。

二人だけの空間が、とにかく、幸せで。

抱きしめ合うとぽつりぽつり、椿がこんなことを言った。

「こんなこと今まで、思ったこと、なかったのに…生徒会の仕事なんてなくなってしまえば、いい、と。
そうしたら多少忙しくても、君に、会いに、行けたのに」


あの椿が、生徒会よりも、オレが“大事”と。


−−−ああもう、こんなにオレを好きにさせてどうするつもりなんだ。




とりあえずは、

「ごめん、もう無理」

と謝って、オレは腕の中に椿を閉じ込めたまま、床に倒れた。