夜、ボクは眠りにつけない。 涙の星が降る夜に それはある男−−−つまり藤崎のせいである。 藤崎とはその…あの、なんというか、恋人という関係だ。 もともとボクは藤崎を恋愛対象として見ていなかったのだが、ふとしたことから藤崎に告白され(藤崎は言うつもりがなかったらしく凄く慌てていたが)、すぐに好きになった。 それからは毎日、45分間の昼休みを一緒に過ごしている。 −−−なのに、ボクの隣にいるはずの藤崎が最近いない。 いつもなら休み時間になった途端にボクの教室へ来るはずの藤崎が、ここ2・3日全く顔を出さない。 それだけならまだいいが、ボクが藤崎の教室を訪ねても、スケット団の部室を訪ねてみてもどこにもいないのだ。 唯一の情報は、笛吹と鬼塚から聞いた『最近忙しそうに休み時間になった途端、教室から飛び出していく』ということ。 何か藤崎の気に障ることをしたのだろうか、と不安になっていたのだが2人の話を聞く限りではそんなことはなさそうで、安心した。 でも何故ボクに何も言わないで顔を見せず、声さえも聞かせてくれないのだろう…。 どんどん悪い方へと向かってしまう自分の思考を振り払い、どうにか眠りにつこうと目を閉じる。 …やっぱり眠れない。 少し睡魔が襲ってくるとすぐに藤崎のことがちらついて、目が覚めてしまう。 そこではた、と気付く。 『電話』があるじゃないか。 夜中の2時過ぎに電話をするなど非常識だとわかっているが、どうしても藤崎を感じたくて携帯を取り出す。 少しの我慢が出来ないくらいにボクは藤崎に飢えていたんだ。 アドレス帳から藤崎のデータを出し携帯を耳に当て、受話器ボタンを押すそうとした刹那−−−プルルル!という着信を知らせる音がボクの携帯から鳴り始めた。 ディスプレイには『藤崎 佑助』の文字。 慌てて電話をとるとプツッ、と音がした後に焦燥に駆られたような藤崎の、声がした。 「椿っ!?」 「…藤崎か? こんな時間にどうしたんだ。 何か用事か?」 こんなことを言いたいんじゃないのに。 せっかく藤崎が電話くれたのに…! 「え、あ、悪い。 特に用事があった訳じゃねーんだけど…」 「…そうか」 なんでこういうときに素直になれないんだろう。 さっきまで、自分から電話をしたいと思ってたほどに藤崎のことが好きだって、素直に言えたら。 「最近会えなかったから、さ。 こんな時間じゃ寝てるかと思ったんだけど、もう我慢できなくて…」 藤崎は優しい。 いつもボクが言えないことを、言ってくれる。 今も、そう。 普段なら恥ずかしくてどうしようもなくて、表面には出さない気持ち−−−藤崎への気持ちが溜まりにたまって、溢れてる。 だから、 上手く言えないけど。 今、伝える。 「藤崎。 少し、外に出てきてくれないか? キミの家の近くにある公園に」 公園に着き、2人並んでベンチに座った。 そしてボクはゆっくりと話し始める。 「さっきの…嬉しかった。 …ボクはなかなか素直になれない、から、藤崎に甘えてばかりだ」 藤崎はこちらを見ながら静かに耳を傾けているようだった。 「電話をかけようとして、携帯を取ったとき、に、電話がきて。 出たら藤崎で…同じこと…考えてくれてたんだ、って嬉しかった」 「椿…」 猛烈に恥ずかしい。 でも今までどれだけ甘えていたのか、藤崎がどれだけ恥ずかしい思いをしながらもボクに伝えてくれていたのか。 今ならわかる。 「ボクも、もう、実際…我慢できなかったんだ。 藤崎といると、嬉しくて…毎日が、楽しくて。 なのにいきなり、会いに来て…くれなくなったから、心配で、笛吹と鬼塚に藤崎のこと聞きに行ったりした…。 ボクの、こと、が、嫌になったのか、とか…も、考えたし」 「そっ! そんなこと、ある訳無いだろ!」 叫びながら藤崎は知らぬ間に流れたボクの涙を見て、一瞬肩を揺らした。 「でも、今回の件で…よく知ることができたんだ。 自分の、本当の気持ちを」 「…え?」 立ち上がり、藤崎の前に立つ。 ちゃんと真っ正面から、目を合わせて、伝えなくてはいけない。 この言葉だけは。 この気持ちだけは。 「藤崎が…好き、」 そう言って、初めてボクからキスをした。 付き合いだした時でさえはっきりと藤崎に『好き』と言わなかったことを思い出しながら、小さく音を立てて唇を離しゆっくりと目を開く。 すると、顔は赤く瞳に薄い涙の膜を張った藤崎の顔が映った。 「…い、や…だったか?」 予想していなかった反応に思わず聞いてしまう。 藤崎は、左右に首を振ってベンチから立ち上がり、綺麗な笑顔をボクに向けてこう言った。 「ありがとう…椿。 言ってくれて。 オレも、椿が好きだ」 静かにキスをする ボクらの足元に 涙がまたひとつ、 音を立てずに零れた。 Weinst du etwa vor Glueck? =(独)幸せのあまり泣いてるの? |