「ねーねー、佐藤くん。」 「なんだ。」 「俺、佐藤くんのこと好きみたいなんだけど。」 「…は?」 こんなことを相馬が言い出したのは、バイトも終わり、着替えるために俺が更衣室に入った瞬間だった。 「あー、やっぱりそういう反応だよね。想像通りだよ!」 あまりの驚きで身じろぎすらできない俺をほったらかしにしたまま、衝撃的発言をした張本人は中断していたらしい着替えを再会しながらにこにこと笑っている。 「俺も最近気づいたばっかりだから、佐藤くんが驚くのも無理はないけど…。」 どうにかイスに腰をかけ、変にうるさい鼓動を落ち着かせるために煙草をポケットから出して吸っていると、相馬は着替えを終わらせ、すーっと隣に座り俺の方にもたれかかってきた。 男にしてはかなり細いなんてことは知っていたけれど肩にかかる重みがあまりにも軽くて、また少し驚く。 俺はそのまま黙って話を聞く体勢に入る。 相馬は静かに口を開いた。 「さっきも言ったけど、気がついたのは本当に最近なんだ。前からなんか、違和感は感じてたんだけど…こう…、はっきりしなかったし。気づいたときはもちろんびっくりしたよ。でもね、ああそっかーって納得しちゃって。」 自分のことなのになんだこの他人事みたいな話し方。 普通、こういうのはもっと緊張して言うことなんじゃないのか? ましてや俺もこいつも男なのに。 そんなことを考えて、自分の吐き出した煙を目で追っていると少し拗ねたような声で「ちょっと佐藤くん、聞いてる?」と腕をつつかれた。 「聞いてるよ。…で?」 「で?って…。」 「続き。」 「…ほんとに聞いてたー?」 不服そうながらもまた話し始める相馬。 今度は俺のどこが好きだとか、俺なら絶対に本人を目の前にしちゃ出来ない話をして、頬を染め、一人で盛り上がっている。 「…と、こんな感じなんだけど。」 「ふーん。」 結局終わったのは、話し始めてから約10分経った頃だった。 あまりに長くて、はっきりいって最初の5分くらいしかまともに聞いてない。 「なにそれ!ひどいよ佐藤くん!俺結構まじめに話してたのに!」 「お前の真面目はにこにこしてることなのか。」 「いや!そういうことじゃないけど!もー…佐藤くんは、こういう話聞いても、なんとも、思わない訳?」 …思わないわけないだろうがこのあほ。 やっぱり相馬はあほだな。 うん。 そう思って頭に軽くチョップをくらわせてみた。 「いたっ!痛いよ佐藤くん!なんで今俺チョップかまされたの!?」 「お前のあほさ加減に呆れた。」 「いたっ!今度は心が痛いよ!」 痛い痛いと騒ぐ相馬。 「かわいそうまさん」と山田によく呼ばれているが、それはこうやって一人で大げさに騒ぐからなんじゃないのか。 …畜生、かわいい。 もともと俺は結構相馬のことを気に入ってた。 器用だし、たまに仕事をさぼるけどそれ以外ではまともに仕事もこなすし。 けどそれが自分でも気づかないうちに、いつのまにか、恋愛感情に変わって。 かわいい。 傍におきたい。 抱きしめたい。 キスしてやりたい。 自分勝手な欲ばかり、心の奥に蓄積されてたところに、今日の相馬の告白。 そして甘えるようなしぐさ。 「相馬」 「んー?」 「俺も好きだ。」 「うん。だとおもっ…て、え?」 「…」 「え、今、佐藤くん、好きって言った?」 「ああ。」 俺の肩に預けていた頭を起してこっちを見ている相馬は、桃というかむしろ林檎くらい赤く頬を染めてる。 やばい、こいつ、絶対おかしい。 普通の男はそんな顔しない、だろ。 「じゃ、あ、俺と佐藤くんは、両想いってこと…?」 「まぁ、そうなるな。」 「え、えええ!いや!ないない!だって、俺、こんな、え!男だよ!?」 「そんなん最初っからお互いわかってることだろ。」 「そうだけど…でも、っ!」 泣きそうに眉をひそめて頬に両手をあてて、あたふたしてる相馬があまりにもいじらしくて、愛しくて、思い切って、抱きしめ、た。 「でも、も、くそもねーだろ。」 「あぅっ、」 「なんか不満か?あ?」 「…な、いです。」 片方の腕に力を入れて抱きしめ、もう片方の手で相馬の髪を撫でる。 硬直していた相馬の体は少しずつ力が抜けて、両手で俺の制服をきゅっ、と握ってきた。 「こんなこと言うの、俺らしくないけど……、夢みたい。」 小さく、本当に俺にしか聞こえないだろうって声でしみじみとつぶやかれた言葉が、嬉しい。 「…そうだな。でも、もしかしたら本当に夢かもしれないぞ?」 「それはすんごく、困るなぁ…。ね、佐藤くん。俺に、夢じゃない…って、教えてくれる…?」 顔を俺の胸に押しつけたまま、そんな殺し文句を言う相馬。 んなもん、いくらでも教えてやる。 、俺だってこれが夢じゃ困るんだからな。 そっと相馬が瞳を閉じるのを見届けてから、口付けた。 やさしく、ついばむように。 それだけで済ましておかないと抑えがきかなくなりそうで、唇を離すけど、まだ足りないと言うように相馬が追いかけてきた。 「っ、ん…」 鼻にかかった相馬の甘い声を聞いた俺は心の中で舌打ちをして、自分の理性に白旗をあげる。 もう、知らねー。 十分に耐えたよな? 息をするためにかすかに開かれた相馬の薄い唇に舌を滑り込ませ、心が欲しがるままに深くまで味わう。 「…ふぁ、っ…さ、と…くん…、」 肩を震わせ必死にしがみついて俺のキスに応えようとしているこいつは、本当に、色っぽくて、体が熱くなるのを感じた。 こんなに人を好きになって、こんなに人を求めることなんて考えたこともなかった。 あくまで、そんなもんは小説だとか映画だとか、現実世界とは切り離された所だけのことだとばかり。 こういうのを誰かが上手く言ってたよな。 Fact is stranger than fiction. (事実は小説より奇なり) 「ぅ、はぁ…」 「…」 「さとーくん、」 「ん?」 「大好きだよ。」 「……………俺も。」 |