「明日夜7時、俺の家で」

雪がちらつきそうなほどに冷え切った外の空気は暖房をつけているこの部屋の温度すら奪っていきそうで。
結露でぼやける窓硝子越しに町並みを眺めながら、久しぶりに俺からシズちゃんにメールを送った。

情報屋なんてフリーターに近い暇な仕事だと思われているけれど、全くもってそんなことはない。
むしろ普通のサラリーマンよりよっぽど忙しく、常に気を張っていないといけないような、実に疲れる仕事なのだ。
多忙を極めるのは世間が最も浮かれる年末から年明けへかけての1ヵ月間。
それは宴会や祭、初詣などでうっかり情報を漏らす人間が多いからだ。(簡単な生物だよね!)

そのまさしく忙殺されそうな期間をやり過ごした俺は惰眠を3日間貪り続け、やっと目が覚めた今日は1月27日。
シズちゃんの誕生日、の前日だった。

なぜか高校時代から続いてる“誕生日会もどき”は、お祝い事が大好きな新羅が昼食時に思いつきで言い出し、その場に居たいつもの4人で第1回が開かれた。
卒業した後、何度かは全員で集まることもあったけれど、今となっては会の主役であるシズちゃんと場所を提供する俺だけなので、ただの飲み会に近いものとなっている。

…とはいえ、ひそかにシズちゃんへ恋心を抱く俺にとっては二人きりになれる1年に1度の嬉しいイベントだ。
しかも一応祝いの席ということで、いつものような罵り合いや殺し合いには発展せずお互いに素直に接することができている…と、俺は思う。

そんな誕生日会は今年も俺が料理やケーキ、しまいには酒やつまみまでを用意する。
あまり知られていないがかなりの芋焼酎好きなシズちゃんの為に選び抜いた数量限定焼酎の手配は今日の夕方に届けさせるよう波江に任せてあったよな、なんて思考を飛ばしているうちにビーーーッという変な音のインターホンが鳴った。

「はーいはい、どなたですか、っと」

窓から離れてキッチン横にある外と繋がっているカメラを確認すると、ちょうど配達屋が来たらしく寒そうに白い息を吐いている。
急いでドアを開けた先には、冷たい空気のせいで真っ赤になった顔のまま満面の笑みをくれる、配達屋ならではの奇抜な色合わせの制服を着た若いお兄さんが小さな小包を抱え、立っていた。

「お届けものです!」

元気のいい大きな声での挨拶が、一人で過ごす静寂に慣れきった耳に少し痛い。

「どうもー、こんなに寒いのにお疲れ様です」

本心からそう言うと、お兄さんは照れたようにますます笑顔を深くする。

「いえ!私はこの仕事が好きでやってますから!ご利用、ありがとうございました!」

最後に彼は俺が押したハンコを確認して、勢いよく頭を下げたかと思うとあっという間にエレベーターへと駆け出した。

ドアを閉め暖かい室内に戻り、早速カッターナイフで受け取ったばかりの箱を切り開ける。
中にはしっかりとした桐箱に入った、黒い芋焼酎が鎮座していた。
シズちゃんの給料ではなかなか手が出せないであろう程の値段がする高級品なだけあって、ボトルの形からラベルにまで気が行き届き、なんとも絶妙な雰囲気を醸し出している。

…これなら間違いなく気に入ってくれそうだ!

そう思ったときに、女の子達がバレンタインデー用チョコレートを慎重に選び、高い値段を出して買うのはこんな気持ちだったのかと妙に納得してしまった。
今までは馬鹿にするような目で見てきたけど、改めなければ。
送る方は、いたって真剣なんだから。


その後、一人で近くのデパート兼スーパーまで買い物に出掛け、ケーキ用の材料や乾物系のつまみ、夕食用の野菜と肉を購入した。
お正月から3週間近く経った為、品揃えも値段もいつも通りだ。

「2回に分けて買い出しに行けばよかった…」

重い荷物をぶら下げてどうにか家に帰り着いた頃には、両腕が痺れてしまっていた。
しかも手袋を忘れていたこともあって、霜焼け寸前にまで指がかじかんでいる。

「んー…でも楽しみだなぁ…」

熱めに沸かしたお湯に手を浸けながら、シズちゃんと過ごす明日へと思考を飛ばした。






 

(柄にもなく)


「よう、また世話になる」

「いえいえー、寒かったでしょ」

「まぁな」

「…今年も二人きりだね」

「そのことについて…なんだけど、さ、」

「うん?」

「あの……、これから、先、も…俺は、二人、がいい、んだけどよ…」

「…え、?」






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