(静雄視点)

自覚をしてからの俺の行動は自分でも驚くほど速かった。

とりあえず片っ端から金を取り立て、トムさんと事務所に戻り、後片付けという名の書類作成、提出をして即刻駅へ向かい切符を購入。
(俺は最近流行りのバスも?だか西瓜?だか知らないがそんなカードは持ってない)

ちょうど来た山手線に乗って、あっという間に新宿に着いた。

ここまで来ておいて難だが、はっきり言って俺は新宿の地理にめっぽう弱い。
そもそも来ないし。
だから申し訳ないとは思いながらも、一番頼りになるセルティにメールをして、臨也の事務所への行き方を教えてもらいつつどうにか辿り着いた…と思ったら中から出てきたのは女で、ブチ切れそうなのを堪えながら話を聞いていると「駅の近くでぶらぶらしてるんじゃないかしら。早く行ってあげてくれる?いいかげんうざいから。」と言われた。

…やっぱりアイツは誰からしてもうざい奴なんだな。

さっき通ってきた道をたどって駅へ戻ったはいいが、馬鹿みたいに出口も人も多いせいで、どこにいるのか見当がつかない。
それこそ不審者だと思われるんじゃないかという勢いで何度も駅へ潜り、地上へ出る。

何度かそれを繰り返したとき、やっと見つけた。

広場にある椅子に座り、まるで誰かを待っているかのように空を見上げている、臨也を。

1ヶ月会っていなかっただけだから、実際にはそんな変化はないのだろうけど俺の目には、最後に会ったときよりも蒼く、くすんだ孤独の空気をまとっているように映った。
それをどうにか払拭してやりたくて、ぶつぶつと独り言を呟き始めた臨也の後ろへまわり込み、声をかける。
肩を跳ね上がらせ、「え?」と反応したものの、俺の方を振り向かない。
イラッとして奴の肩をつかもうと手を伸ばした瞬間。

もの凄い速さで走り出した。

もちろん俺じゃない。
臨也が、だ。

それこそ脱兎のごとく走り出した臨也はあまりにも必死で、今にも足がもつれそうな走り方をしている。
どうにか喰らいついて走っていると、せまい路地の角を曲がったところで臨也は急に足を止め、こちらを振り向いた。
薄暗いなか、こちらを見つめてくる赤褐色の瞳が鈍く光っている。

「……なんで来たの。」

少しの間動かずに見つめ返していると、さすがに気まずくなったのか、臨也は視線をすぅっと横へ逸らして俯くようにして口を開いた。

「シズちゃんは今仕事中のはずじゃないの?てかここ、池袋じゃなくて新宿だよ?田中さんはどうしてんの?君がここにいるなんておかしいじゃない。なんでいるの。」

黙ったまま、俺と臨也の間にある3メートルの距離を1歩ずつ縮める。
近づくと、短い臨也の髪の隙間から、ちらりと見える耳は真っ赤になり、これまた短い前髪からはみ出るように長い睫毛は小刻みに震えていた。

「…1ヶ月間、どんなに待っても、連絡、くれなかったくせに、なんで…!」

血が出てちまうんじゃないかっていうくらいに固く握っている臨也の手の上から自分の掌を重ねる。

反射的に振り払われそうになったところを思いっきり握りこむと諦めたのか、もう振り払おうとはしてこなかった。
そこで俺はやっと口を開く。

「仕事は終わらせてきた。ここが新宿なのは知ってる。1ヶ月連絡しなかったのは、手前から連絡がくるんじゃねーかと思ってたから。でも…もう、待てなくなったから、来た。」

「……」

「お前に会いたかったから、来た。」

全部本当のことを話す。
嘘、偽りは、ない。

臨也の反応を窺うため、握った手はそのままにしゃがみこもうとすると、その手を思いっきり引かれて臨也と一緒に地面へ倒れこむ。

「…おい、」

今の体勢は、非常にまずいんじゃないだろうか。

体重的にも身長的にも、つまり体の大きさからいってこの体勢は臨也にとってかなりきついはず。
そう思って声をかけたのに、臨也はおかまいなしに俺の下敷きになった状態で、首に腕を回して抱きついてきた。
そして肩口に顔を押し付け、俺の耳元でぼそっと言葉をこぼす。

「今、ちょっと、無理、だから、こっち見ないで。」

あ、やばい。
また堕ちた。

「駄目だ。」

「え、やっ、ちょ!」

力尽くで顔を上げさせ、覗きこむ。

そこには、見たこともないようなほど頬を赤く染めて、しずくを落とす直前まで瞳を潤ませた臨也がいた。

あまりにも美しくて思わず息を呑むと、目の前のこいつは何を勘違いしたのか、よけい泣きそうな顔になってまた肩に顔をくっつける。

「だから、無理って言ったじゃん。気持ち悪いでしょ…!俺が、こんな…」

気持ち悪いだと?
本当に俺がそう思ったと思ってやがんのか?
この状況で?

「手前…やっぱ阿呆だな。」

「なに、っん!」

口を開いた途端に可愛くなくなるとわかってるので、「いいか、よく聞けよ。」と臨也の口を手でふさいでおく。

「俺は臨也のことを気持ち悪いだなんて思わないし、むしろ綺麗だと思ってる。そもそも好きだっつってる相手にそんなこと思うか?普通。」

言い切ったところで、…今俺、かなり恥ずかしいことを言ったんじゃないか?、と気付き、一気に顔が赤くなるのを感じた。
でも、口から発した言葉は二度と、返ってこない。

臨也も臨也で口をふさがれた状態で俺のシャツを掴んで黙ってるし、俺は恥ずかしくて顔を逸らしたっきり戻せないしで、5分くらいが経った。
といっても俺が長く感じただけで、実際は2分も経ってなかったかもしれないけど。

「、…が…。」

「…あ?」

なにかを臨也が言って、あまりの声の小ささに、俺はそれを聞き逃す。
聞き返すと、いきなりキッとこちらを睨んで、背伸びをした臨也に噛み付かれた。

…否、
キスをされた。

やっと状況が飲み込めたときには、直前まで、確かに感じていた温もりが離れていく途中で。
迷わず黒い髪の毛に手を突っ込み、無理矢理引き寄せて、俺からもキスをした。

さっき臨也にされたような、触れ合うだけの可愛いキスじゃなく、俺の腕の中で熱にうなされながら震える、こいつの全てを奪うような、そんな。

「ぁ…っ、ぅん…ふ、しずち…ゃ、っん」

息が苦しくなったのか胸を叩かれて、唇を離す。
お互いの舌と舌を繋いでいた唾液がぷつり、と切れたときに我に返った。
まだ浅い呼吸を繰り返している臨也を座り直させ、楽な体勢にしてやると力の抜けた体を俺に預けてきた。
そろそろ落ち着いただろうと横を見る。

「…し、ずちゃん、」

タイミングよく話し始めた臨也はどこか雰囲気がふわふわとしていて、また胸が一際大きく鳴った。

「ん?」

「俺達って、両想いだったんだね。」

「……ああ。」

殺し合いをしていた中で生まれたこの感情は、小説やなんかに書かれているような美しいものでもなんでもなくて。
醜い独占欲だとか征服欲だとかがごったになってるような、むしろ汚れて不細工な形をしている。

でも、なによりも大事にしたいと思える、俺だけのものだから。


「ずっと、これから先も、よろしくね。シズちゃん。」

「俺から離れるなよ、臨也。」

自由奔放で、気高い野良猫みたいなこいつが離れていかないように、しっかり捕まえておくことにしようか。



If you dream,
suddenly,
suddenly it happens and dreams come true.

(夢を見ると、突然、そう突然起こるんです。そして、夢が現実になるんですよ。)







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