一度しか言いませんよ。卒業、おめでとうございます。




卒業式の朝、私は目覚まし時計が鳴る
前に目を覚ました。その時計に手をか
けてアラームが鳴らないようにオフに
して、やけにすっきりと目が覚めたな
ーと思いベッドから立ち上がって大き
く伸びをする。


「ん、たかや?」
「おう。はよ」


着替えようとタンスに手をかけたら携帯
が震えた。電話の主は阿部隆也。


「どーしたの?」
「もう、準備できたか?」
「へ?」
「家。目の前にいんだけど。」


その言葉を聞いて急いで制服に着替えて
外に出ると確かに隆也がいて、自転車に
跨ってその後ろに乗れと指さす。


「たかや、いきなりすぎっ」
「いいだろ、別に」
「まあ、そうだけど。卒業式だよ私」
「知ってるよ、いいから早く乗れって」


言われるまま隆也の後ろに乗るとそっと
隆也の背中に抱き着いた。


「!」
「なに、びっくりしてんのよ!」
「して、ねーよ!!!」


そんな隆也の後姿を見つめると耳まで
真っ赤になっていて笑えた。いつも
してることなのに、意識しちゃって可愛いなあ。更に抱きしめる
力を強めると今度は左右に揺れた。


「たかやっ、危ないでしょ!」
「おめーが力入れっから・・・!」
「・・・ふは」
「笑うな!」


自転車に乗って最後の登校時間まで
行くあてもなく走る。朝早いのもたま
には悪くないと思う。でも二人乗りでき
るのも今日で最後だねなんて隆也の背中
に語りかけてみる。


「・・・できるよ。」
「え?」
「また乗せてやるよ。」
「・・・うん!」


嬉しいと笑うと隆也は急に自転車を止め
私を降ろして珍しく敬語でこう言った。



一度しか言いませんよ。卒業、おめでとうございます。


(え?もう一度言って?)
(だー!もうゼッテー言わねえ)
(聞こえなかった!)
(知らねえよ)

20120331.
確かに恋だった




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