おお振り(短編) | ナノ







長い髪を揺らして走る市民ランナー。
初めて見た時この人には笑顔が似合う
と思った。最近、俺の家の近くを走っ
ているみたいだ。

いつも、朝練で早く出て行くと
ばったりその人と会う。
ただすれ違うだけじゃなくて、
俺ににっこり笑いかけて挨拶を
するんだ。
その度に俺の中で何かが弾ける
音がする。


「あ、おはよう。今日も早いんだね」
「おはようございます。朝練があるんです」


俺を見つけてとぱあっと明るくなる
笑顔にどきどきして、可愛いなって
思ったり、朝だから俺には眩しいく
らいだとクサイことを考えてしまっ
たりと俺の脳内はおかしいなほんと。


「おーい、大丈夫?」
「はい、まぶし…!」
「別世界に行ってたみたいだね」


くすくすと笑う名前も知らない
ランナーさんに俺は照れ笑った。


「じゃあ、そろそろ行くね。」
「はい。頑張ってください」
「栄口くんも頑張ってね!」


何で名前を知っていたのかを聞き
たかたけれど、軽快に走っていく
姿を見て綺麗だと見入ってしまった
せいで聞けなかった。

「おっす、栄口…?」
「…。」
「どした?」
「ん、ああ。泉か、はよっす」


熱でもあんのかとか泉に心配
されたけど、大丈夫だよと笑って
みせると泉も納得してたらしい。

あとから気づいたけど、俺のエナメル
に消えかかっていた自分の名前が書い
てあった。



眩しいランナー


(次に会ったら)
(名前を聞こう。)

20111115.








prev next