短編 | ナノ


人の記憶というものは、覚えていたい、幸せなものから消えていくものだ。忘れたい辛いものほど、長く覚えているものだ。


そんなことを言われても、アイツの笑顔だけは永遠に忘れない自信があった。たとえ年を取って、ジジイになったとしても、あの笑顔だけは忘れない自信が、覚えてい続ける自信が、確かに、

…確かにあったんだ。



それなのに、今、その笑顔が思い出せない。
あんなに愛しかったのに。
忘れるはずがないほど、鮮明だったのに。

何故…


思い浮かんでくるのは、ぼんやりとした人影だけ。
武州の空も、その土地に染み込んだ思い出さえも、アイツの笑顔と共に薄れていく。消えていく。





もう思い出さないと決めたはずだった。後ろは振り返らないと決めたはずだった。
だから、思い出が消えようと、アイツの笑顔が思い出せなくなろうと、一向に構わないはずだった。

でも、心のどこかで思っていたんだ。
アイツの笑顔だけは忘れないから大丈夫、と。他の何を忘れようとも、あの笑顔さえあれば大丈夫、と。






怖がりの強がり


(待って、消えないで。
僕は君が居なきゃ何も出来ないんだ)




俺はずっと、あの記憶に依存していた…。





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title:ことばあそび