短編 | ナノ
頬を撫でる風に煙の匂いが混ざっている。 見上げる空には二隻の船。一隻は宇宙海賊春雨のもの。もう一隻は、袂を分かった幼なじみ率いる鬼兵隊のものである。 未だ沸々と込み上げる怒りの他に、哀しみとも悔しさとも取れぬ思いが渦巻くのを桂は気付いていた。だがもう暫くは気付かぬフリをしていたい。そんな気分だった。 始まりはみんな同じだった。それなのに、気付かぬ内に随分と遠くへ離れてしまったものだ、俺達の道は。いやそれとも、気付いていながら気付かぬフリをしていただけだったのだろうか。今の自分のように。…今となってはもう分からない。そしてもうどうでもいい事だ。
「最初から違う道の上を歩いていたんだよ、俺達は」 下から銀時の声が聞こえた。 「高杉も同じようなことを言っていたぞ」 「…あっそ」 桂の足にしがみつく銀時の表情は見えなかったが、きっと何とも微妙な顔をしている筈だ。 「アイツがどう言ったか知らねぇけどな、確かに俺達はてんでバラバラの道を歩いてたんだ。だけどなぁ、お互い…手を伸ばせば掴めたんだよ」 あの頃の俺達は。 だとすれば、今の俺達は手を伸ばしても届かぬ距離に来てしまったのだろうか。 桂は先程交わした高杉との会話を思い出す。 存外、そうでもないのかもしれない。先程桂が精一杯伸ばした手は、高杉によって叩き落とされた。まだ、手は触れあっていたのだ。 「そうだとしても、アイツはもう掴んではくれないだろうな」 「俺達の方から伸ばせなくなったってことも忘れんな」 「…そうだな」
次会った時は、斬る。 銀時も桂も、そんなことを宣言して船から飛び下りてきた。高杉はただ笑みを浮かべるだけだった。あの笑みの下にどんな感情が隠れているのか、それは桂の知るところではない。ただ願わくは、今桂が気付かぬフリをしている感情と同じ類いのものが隠れていますようにと。これ以上高杉が、人の道を踏み外しませんようにと。
心の声を聞かせて (本当に君は遠くへ行ってしまったのか)
―――――――――― 映画公開記念。
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