短編 | ナノ


今日は体調が良く、久しぶりに縁側に出た。ここのところずっと熱が続いていて、母親が付きっきりで看病してくれていた。その熱も漸く引き、今はこうしてひとりで縁側に座っている。双子の弟、鴨太郎は学問所だという。
冬のきりりとした空気が肌に刺さり、痛い。だが、その感覚さえが久しぶりで楽しかった。

「鴨太郎、早く帰ってこないかなぁ…」

足をプラプラ揺らしながら、呟く。
自分達は兄弟だというのに、会う時間が極端に少ないと鷹久は思う。前に鴨太郎と顔を合わせてから何日経つだろう。自分達があまり顔を合わせないのは、勿論、自分が病弱で、母上が中々人に会わせないのもあるだろうが、それだけではない気がする。鴨太郎自身が自分を避けている。鷹久は、うっすらとだが、そう感じていた。


「只今帰りました」

玄関からの鴨太郎の声に、鷹久は、はっと顔を上げた。
とたとた…
足音がこちらに近付いてくる。

「おかえり、鴨太郎!」

鴨太郎の姿が見えたところで、そう叫んだ。
鴨太郎は、心底驚いたようだった。
「兄上!?お体は、大丈夫なのですか?」
「もう大丈夫。それより、鴨太郎。いいものがあるんだ。ちょっと来て…」
鷹久は手招きをして、自分の部屋に入って行く。少し間を置いて、鴨太郎も不思議そうな顔をして部屋に入ってきた。

「じゃーん!」

鷹久が鴨太郎の目の前に出したのは、サンタの靴にお菓子を詰め込んだアレである。以前、父親から天人から伝わった“くりすます”の話を聞き、自分から鴨太郎に、と買ってもらっておいたのだ。勿論、母親には内緒で。
「兄上、これは…?」
鷹久は、にこにこと話し始めた。
「あのね、今日は天人のお祭りで、くりすますっていう日なんだって。ご馳走を食べたり、贈り物をしたりするそうなんだ」
だから、ボクから鴨太郎に贈り物!
「ありがとう…ございます」
鴨太郎は、戸惑いを含んだ微笑みを向けた。
「でも、僕は何も…」
用意していません。と続く言葉を遮って、鷹久は言った。

「じゃあ…






鴨太郎とおしゃべりしたい」







(見て、鴨太郎。雪だ!)





――――――――――――
2009X'mas企画と言いつつ一作品しか公開出来なかったもの。
title:揺らぎ