パチパチという薪のはぜる音。明々と燃える炎。もちろん、その周りには火に手をかざす人影。晩秋から冬にかけての定番の風景。 冬の足音が聞こえてくるようになってきた、今日この頃。昼間はまだ、日差しのお陰で暖かいが、さすがに夜ともなれば、暖を取るものがなければ過ごしにくくなっていた。 「…さみー…」 「何を言うか、銀時。貴様が一番火の近くに居るではないか」 「でも、寒い」 火の近くでちんまりと丸くなる銀時に、相変わらず寒がりだな、猫のようだ、と桂は笑う。 銀時と桂のやり取りを隣で聞いていた高杉が、二人の会話に首を突っ込んできた。 「そんなに寒いなら、その天パ燃やしてやろうか?ちょっとは暖かくなるかも知れねぇぜ?」 「やれるもんならやってみろチビ助」 「てめえ言ったな?死んでも責任取らねぇぞ」 言うが早いが、高杉は手近な薪を焚き火から引き抜き、銀時に近付ける。 「うぉあっつ!っつ!熱っ!!ちょ、お前、ホントに燃やすか普通!?ここ焦げちまったじゃねーか、どうすんのこれ!?」 「俺は責任取らねぇから」 しれっと言ってのける高杉に、額に青筋を浮かべた銀時が掴みかかった。 「ざっけんな、バカヤロー!てめー、これ、冗談と本気の区別も出来ねえのか、馬鹿!」 「はいはい、そこまでじゃ。落ち着け、銀時。高杉、今のはさすがに悪ふざけが過ぎちょるぞ」 ずっと二人の様子を見ていた坂本が痺れを切らせて止めに入る。坂本の意見に、桂も坂本の言う通りだ、と頷く。 さすがの高杉もやり過ぎたと思っていたのか、ばつの悪そうな顔をして、悪かったな、と呟いた。が、銀時は依然としてぶすっとしたままだ。その場に、何とも言えない、居心地の悪い空気が漂う。 ポン、と坂本が思い出したように手を打った。 「そうじゃ!この間、立ち寄った村の方から芋を貰うたんじゃ!すっかり忘れとった。丁度焚き火があるんじゃ、焼き芋でもやらんか?」 途端、銀時の顔がパッと輝く。 「やろうぜ、焼き芋!」 よし、やろう、焼き芋。アルミホイルか何かあったか?それなら、紺の風呂敷の中に…。 先程までの重たい空気が嘘のように、その場が活気づく。どこから聞きつけたのか、他の者も集まってくる。わいわいと焚き火の周りで焼き上がりを待つ様子は、昔の思い出と、どこか重なる。 ホクホクに焼き上がった焼き芋をぱくりと頬張ると、独特の甘みが口の中に広がった。皆も口々に、うまい、とか、あつっ、とか言いつつ食べている。こうしていると、今が戦の最中などというのはまるで嘘のようだ。 高杉や桂達から少し離れた場所で芋を食べていた銀時の下へ、坂本がやって来た。 「向こうで食べんのか?」 「んー…、ここでいい」 「高杉の事は…」 「もう怒っちゃいねーよ。俺だって、そんなお子様じゃねえからな」 「ほうか。ほんなら、ええんじゃ」 銀時の脇に腰を下ろした坂本は、そのまま何も言わずに仲間達の様子を眺めている。銀時もそれに倣って皆の方を見やる。あちらこちらから、笑い声が上がる。程度はそれぞれだが、高杉も、桂も、皆笑っていた。 「わしゃあ、人っちゅーのは、笑うとるのが一番よう似合っとると思うんじゃ」 視線は動かさずに、坂本が呟いた。 「笑うとる時が、一番力が抜けとる。抱えとるもんも、周りからの重圧も、哀惜も、後悔も、全部全部、笑うとる時だけは忘れてしまえる。忘れて、軽くなれる」 坂本の目が、しっかりと銀時の目を捉える。何故か、目を逸らす事は出来なかった。 「銀時。わしは、おんしが何をそんなに考え込んどるのかなんぞ、分からん。分からんが、これじゃ、いかんのか?こうやって、今、笑うてられるだけじゃいかんのか?」 銀時がずっと戦場で感じていた不安を、迷いを、坂本は見抜いていた。はっきりと分からずとも、感じ取っていた。 坂本は、それっきり何も言わなかった。二人の間に、再び沈黙が訪れた。仲間の笑い声と木々のざわめきだけが、耳に届いてくる。 そうか。俺は、この時が好きなのだ。銀時は、唐突にストンと納得した。皆の笑顔が、他愛なく笑っていられる時間が好きなのだ。この時間が、壊れて欲しくないのだ。戦に参加したのだって、そんな理由からだったじゃないか。それが、いつの間にか分からなくなっていた。大切な事を、見失っていたんだ。 「銀時ィ、坂本ォ。こっち来いよぉ!」 高杉が笑いながら手を振っている。 I have a dream that ... 嗚呼、いつか… いつか、この戦に終わりが来て、 「今行くぜよー!」 坂本が返事をし、銀時に手を差し出す。 「ほい、金時も立て。あっち、行くぜよ」 one day... 誰も、何の心配もぜずに、笑える日が来るといい。 苦しみから逃げるための手段ではなく、 ただ単に、幸せだから笑える日が来るといい。 差し出された手を取り、銀時は立ち上がった。 「だーかーら!銀時だっつってんだろうがっ」 all the world will be... smile. ―――――――――――― 「僕等の戦争」様に提出。遅くなってすみませんでした。 |