憐れむように愛でてしまった。それが、全ての引き金になるとも気付かずに。
久しぶりにやって来た友人には悪いが気分が優れない。原因がそこにいる。茶を出してやるほど優しくもなれないしスミレに彼が来たことを教えてやる義理もない。勝手に台所にある茶を沸かしているミナキに多少イラついたがそのままにしておいた。
「マツバ、スミレは今日はいないのか?」
「彼女が毎日いると思ったら、それは間違いだ」
「…何かあったのか」
茶を飲んでいたみな気がゆっくりと茶飲みを置いた。何でこういう所は鋭いのだろうか。こういう所に関しては千里眼を持つ僕よりも鋭い。暗がりにいるゲンガー達を見つめながら頷くと机の上に腕が叩きつけられた。ここは人の家だぞミナキと口うるさく言ってしまいそうになった。
「君たち喧嘩でもしたのか問題だぞ。それは」
「煩いな。ミナキに言われる筋合いはないだろ」
「たしかにそうだが…」
「放っておいてくれ。これは僕の問題なんだ。ミナキは口を出さないでくれよ」
「っな、僕たちは親友だろ」
ああ、確かに親友だよ。それでもこれだけは言ってはならないんだ。スミレの事を好きだと知っているのに、何でミナキは僕から彼女を奪ってしまうのだろうか。別に彼が悪いとは思わない。けれどもやりきれないこの気持ち。ミナキには絶対にわからないだろうこの気持ち。
「取り敢えず、仲直りをするんだよ」
また机に腕がたたきつけられて湯呑の中の茶が揺れる。僕は勿論だとも、と言いたげに笑って頷くと安心したように笑ったミナキ。どこが良いのだろうか。こんなスイクンばかり追いかけるような男。
暫くは茶が無くなったら入れて、それを飲みながら話をすることになった。ホウエンの方に今度行こうかと迷っているだとか、スイクンの事やホウオウの事。何時しか机の上には煎餅や他の地方の名産品である森の羊羹が置かれている。最初の暗い話などどこ吹く風だ。ゴーストポケモンが好む夜になっても話は続いた。
「この羊羹はハクタイの森にある洋館にちなんで名づけられたらしい」
「洋館か…ゴーストタイプのポケモンが好んでいると聞いているな」
「ああ、その洋館にはいろいろと出るらしいんだ。シンオウはそういうのが多いから一度、スミレを連れて行ってやりたいと思う。怪談が好きだったな」
嫌になる。何でそんな事を思い出して連れて行きたいと思うなんて口走るんだ。僕の落胆した様子を見て、悪気はないと言うが。いや、本当に悪気はないのだろう。僕は黙って羊羹を食べる。普通に美味しいが気分がその甘ったるいだけじゃ拭えそうにない。
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