【奇妙な集団がやってきた。】

深夜。部屋の主が眠りに就いて、静けさだけが支配する部屋に、訪問者があった。がやがやと大声を出しているのに、近所の者はおろか部屋の主でさえも起きることはない。それどころか、時が止まったかのようにピクリとも動くことはなかった。
「無事、こっちの世界に繋がって良かった」
「でも時間はそんなにないからね。再び世界を繋げるには時間がかかる」
「分かってるわ、レノ」
ふわり、と大きな猫のぬいぐるみを抱えた少女を降ろした赤髪の男は、部屋のテーブルに花と箱が置いてあるのに気づく。
「おや、誰か先に来ていたみたいだね」
「一番乗りかって思ったんだけどなー」
赤髪の男に続き、白髪の男に、軍服の男達が続いて部屋の一角から出てくる。靴のままで入ってきた彼らのせいで、床は少し汚れたようだ。
「ぶっ…ギルヴォルガ、貴方なんで海藻なんか持ってきてるんです」
「海藻だけじゃねーよ!おら!」
「海藻に…」
「包まれた…」
「魚?」
ギルヴォルガと言う名の男は得意げに一緒に来た人々に見せるが、周りは唖然とするだけだ。中でも白髪の男は呆れたようにため息をついている。
「ギル…今日はバレンタインと呼ばれる行事ですよ」
「わ…分かってる!!」
「分かってません!いいですか…」
「………レノウォール、あいつらはほっといていい」
説教交じりの説明をしだした白髪の男を放置して、ギルヴォルガと同じような服装をした男達が持ってきた物を机の下に置いた。ぬいぐるみをテーブルの足に凭れさせた少女はテーブルの上に既に置かれていた花に添えられたメッセージカードを見る。そこには、綺麗な英語で名前らしきものがたくさん並んでいた。真っ暗なはずの部屋で、これほど鮮明に文字や互いの顔を認識できるのは不思議なことだが、訪問者は誰一人として疑問には思わないようだ。
「アリスのはいいとして、君達のは床の上に置いていいものなのかい?」
「食べ物を持ってきたのは白兎……とギルぐらいだ」
「やぁね、女の子にあげるのに魚なんか持ってきて。乙女心を全然分かってないじゃない!」
「んだと!?だったらドピウォグ!てめぇは何持ってきやがったんだよ!」
「内緒に決まってるじゃない!野蛮なあんたと一緒にすんじゃないわよ!」
「……アルもギルも、一応とはいえ静かにする気はないのか…」
わいわい遠慮なしに騒ぐ訪問者。部屋の主はピクリとも動かない。よくよく見れば、呼吸さえも止まっているようにも見える。
「レノは何を持ってきたの?」
「ん?私はコレだよ」
ぱっと少女に見せた空の手を、レノと言った男は部屋の主の上で合わせ、蕾のように膨らませた。その手を左右に広げれば、手のひらから金色に光輝くものが部屋の主の上へと舞い落ちる。
「わあ…」
「幸福のおまじない。私達が彼女にできることは少ないけど…」
「綺麗だけど、これ、なんで消える?どういう仕掛けだ」
「それは君。言っちゃあ、つまらないな」
楽しげに笑う男の目の前で、少女は部屋の主の布団を軽く叩く。舞い落ちたはずの輝くものはその弾みで再び舞うことはなく、目を凝らしてもその痕跡すら見当たらない。
「レオンは何を持ってきた?」
「書物だ。こちらの方にも読めるようにレノウォールに手を加えてもらった。イア、お前は?」
「お守り、のようなものを」
「………ですから、女性へ贈る時は」
「…おい、まだ続いてるぞ」
「ベール…もう時間もないし、その辺にしてあげて」
「…まあ、そうですね。今日を説教で終わらせるのもそちらの方に申し訳ないですから止めましょう」
「もー十分説教食らったけどな」
ふて腐れるギルヴォルガ。と、不意に、彼らの周りが光りだした。
「時間だ」
「ベール!それ早く置いて!」
「この魚どーするのよ!」
「ああ?!あげるに決まってるだろ!」
「そんなのいらないわよっ」
「いや、もうそんな時間無…」
ぷつりとテレビのチャンネルを切ったかのように辺りが静かになった。それまで聞こえなかった部屋の主の寝息と、時計が時間を刻む音が時の流れを示しだす。それまであった床の汚れもなく、訪問者の形跡はテーブルの下に置かれた物だけだ。
床の上には放り出された魚が落ちている。部屋の主が起きるまで、まだ数時間前。






.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -