【スーツ姿の男達がやってきた。】

深夜。部屋の主が眠りに就いて、静けさだけが支配する部屋に、訪問者があった。かなりの人数に対して、その足音は居ると知っていないと聞こえないほどの忍び足だ。こそこそと喋る訪問者達は自らの足音とは反対にがさがさと音を立てて、持ってきた物を確認する。しかし、そのうち一人が暇そうにまじまじと主の顔を覗き込み始めた。
「おい!ウォン!起こすんじゃねえよ」
「起こしてないよ!せっかく来たんだから顔ぐらい見たっていいでしょ?ついでに写真とっとこうかなあ…」
「面倒事を招くだけだ。止せ」
服装をスーツで統一している集団の中、一人だけ袖の広い中華服を着た男の首を、襟足だけを伸ばした男が掴み、部屋の主から引き剥がす。加えて長身の男が止めに入るが、ウォンと呼ばれた男が引き剥がされたのを確認して、何故か、部屋の主の顔を確認した。
「何だよ、真神。お前も…」
「普段、アレが世話になっている方だろう。顔ぐらい覚えておかないでどうする」
「ほらぁ、真神も言うことだし証拠写真でも…」
「仕事以外のことじゃ法律が面倒だからやめようね、ウォン君」
再び写真を撮ろうとしたウォンを、これまた再び最初の男が制す。これには扉付近にいた男も口を挟んだ。
「長居は出来ないぞ、狐笛」
「分かってます、ノエル局長」
「このチョコレートは何処におく?」
「冷蔵庫の中入れとく方がいいか?」
「キルケゴール…プレゼントを冷蔵庫にいれてどうするの」
「冗談だって、精霊」
「真神ぃー花束どこにおく?」
「チョコレートの隣でいいだろう」
「ねぇ、なんでメッセージカード誰も書いてないのっ」
「各々の書くスペースが無かったから名前だけ入れておいた」
「ここにメッセージあるしいいだろ」
訪問者は入室際の静けさは何処へやら、わいわいと騒がしく持ってきたものを近くにあったテーブルスペースに置く。花、ラッピングされたチョコレート、…書類。
「おい、誰だよ。この書類」
「あ、我…」
「ウォン…」
はあ、とため息をつく男の隣で、花束を置いた男が立ち上がった。手ぶらの男たちはその間、部屋を眺めている。
「まさしく女性って感じがするね」
「女性の部屋に勝手に入るのは失礼で申し訳ないな」
「ずかずかと平気で入ったの誰だよ」
「少なくとも俺だけではないな」
明かりの乏しい部屋の中、男たちは一斉に苦笑いを浮かべる。そんな中、もう用事は済んだとばかりに長身の男は扉に手をかけようとしていた。
「ちょっと待てよ、真神」
丁度扉の近くにいた金髪の男がそれを止め、初めて部屋の主の元へ近づく。
「ハッピーバレンタイン。………いい夢を」
「キルケゴール先輩!」
「…サルバトーレ?」
さっと青ざめる者や、黒いオーラを醸し出す者。眠る主の耳元で囁き、額にキスを落とした男をずっと隣に居た男が引き戻した。
「さあ、サルバトーレ行こうか。帰ったら、僕と話をしよう」
「え、ちょ、精霊、待った、俺は」
有無を言わさず引きずり外へ出る男達。局長も黙ってその後に続く。どうやら、精霊と呼ばれた男の「話」は回避できなさそうだ。
「先輩どんまーい」
「さ、俺達も行くか………って真神?!」
「わーお、真神が積極的!珍しい!」
「………先輩の匂いを消しただけだ」
「うわークサい台詞ありがとう」
「先輩達に言っちゃおー」
嬉しそうに、にやけながらパタパタと出て行く訪問者達。最後に残った男は、ふう、と一人ため息をつき、部屋の住人にもう一度目を向けた。ピクリと動く住人の肩に、一瞬動きを停止して、早々と扉を静かに閉めて立ち去る。
部屋は最初と同じ静けさを取り戻した。部屋の主が起きるまで、まだ数時間前。






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