「えーっと、まずは野菜だろー」
とあるスーパー。カラカラと音を立ててカートを押しながら泉兎は歩いていた。その後ろでは欠伸を隠そうともせずに歩く虎南の姿がある。
見るからに不機嫌そうな様子から、無理矢理連れてこられたのは明白だった。
久しぶりの休日に惰眠を貪る間もなくたたき起こされ、半ば引きずられるようにしてやって来たのがここである。
「……おい」
「何だよ、荷物持ち」
振り返ることなく人参を見定めている相棒の姿に虎南は溜め息をついた。
「本音だだ漏れだぞ」
どうせ返事はないだろうなと思いつつ声をかける。予想通りだったけれど、何となくムカついて置きっぱなしのカートを軽く蹴ってみた。床を滑ったカートは狙い違わず泉兎の背中に激突する。
「いてっ! 何すんだよ」
「悪いな。脚が長いせいでぶつかった」
「つまんねえ嘘つくなっての」
罰として押せ、とカートを押しつけられた。
野菜の乗ったカートに寄りかかるように押しながら、さっさと歩き出した泉兎を追う。
その途中、目についた冷凍食品の棚。ふと立ち止まり、ピザをいくつか取ってカートに放り込んだ。
「おーい虎南ー!」
離れた所で手にした肉をぶんぶん振りながら声を張り上げている泉兎に視線を移し、ゆっくりと歩みを再開した。
「ったく、何してんだよ」
ジロリと虎南を睨みながら、抱えた肉のパックをカートに入れる。そこで入れた覚えのない品に気が付いた。
「おい虎南」
呼びかけるが応える声はない。だが、泉兎は気にせず続けた。
「何だよこれ。いらねえだろ」
「どうだかな」
「どういう……って、何追加してんだ!」
「シリアル」
近くの棚から取ったシリアルの箱を放った虎南がしれっと答えると、さらに泉兎の眦がつり上がった。カートの中からシリアルの箱を出すと、元の棚へと戻す。
「ンなの分かってんだよ。何でいらない物を買うんだよ」
「必要だから」
「俺がメシ作ってんのに必要なのか?」
「普通ならいらないな」
「言ってること無茶苦茶だぞ、お前」
腕を組んで睨みつけると、虎南は肩をすくめてその視線を受け止めた。面倒くさそうな表情に反して、すらすらと理由を述べる。
「お前が創作料理にハマりだしてからまともな料理が出てきた試しがないだろうが。このままじゃ俺の胃がもたない」
「うっ……」
もっともな理由に泉兎は目を逸らすと、愛想笑いを浮かべながら人差し指を立てて負けじと言い返す。
「でもほら、人生何事もチャレンジすることが大事じゃん?」
「時と場合にもよるだろ。ことメシに関しては生死に関わる」
「……分かったよ。三日に一回にする」
「一週間に一回」
「五日に一回」
虎南が溜め息をつき、了承と取った泉兎はにっと笑うと、カートからピザの箱を取って押し付けた。
「んじゃ今日は何にする?」
「そうだな……和食?」
「了解」
味噌汁とー、と献立を考え始めた泉兎を置いて、虎南はピザを戻しに行った。
「メニューも決まったし、さっさと買って帰ろうぜ」
頭の後ろで腕を組んで虎南を待っていた泉兎の隣を歩きながら、虎南はずっと気になっていたことを口にした。
「思ったんだが、車なのに荷物持ちは必要か?」
「何言ってんだよ」
振り返った泉兎が当然のように言い切った。
「車までと車から部屋まで。ほら必要だろ?」
そう言って笑う泉兎を軽く小突きながら、虎南もつられるように笑みをこぼす。
――こんな休日もたまにならいいか。
心の中で呟いて、先を行く相棒の背中を追いかけた。
END
ほのぼの休日の二人を書いてくださいました!
二人きりでいるときに表れる、いたずら好きなクソガキっぷりが見事に表現されてて嬉しいです! 会話のやり取りも文体も違和感なさすぎて、正直テンよりも虎南と泉兎をわかってると思いました←
素敵な作品を作ってくださり大感激でございます。
和泉さま、ありがとうございましたー!
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