慣れないことはするものではないと思う。しかし今は緊急事態だ。
 相棒が倒れた。と、いうのも大したことではない。風邪をもらってきたらしい。体調管理は基本だというのにけしからんことだ。休暇に入ったばかりで運が良かったといえばそれはその通りだが。
「……あつい」
「薬は」
「飯食わないとむり」
「飯は」
「つくれねえ」
 ということだ。何がかというと、俺がキッチンに立っている理由がである。
 熱を出して額に濡れタオルを載せてぐったりしている泉兎を見ると、まあ確かにキッチンに立てるようには見えない。しかし何か食わせないことには薬も飲ませられないだろう。なんせ今は夜だ。晩飯の時間だ。病院も閉まっている。
 そういうわけで、慣れないことをしようとせざるを得なくなった。
(で、何作りゃいい)
 病人に食わせるものといったらあれか。粥か。作り方は知らないが食ったことはある。どうせ作れるもの自体ほとんどないのだから、作ったことのないものを作ったところで文句を言われる筋合いはない。
 米を見つけたので粥に決定した。鍋に入れた。水も入れた。煮た。何か足りない気がしたので目に入ったものをとりあえず入れた。塩とか入れておけばいいのではないかと思う。野菜か何か入れればいいのか。適当に入れた。包丁を使う気にはならなかったので適当に入れた。色が薄すぎる気がしたので適当なものを見つけ入れた。どのくらい煮ればいいのかわからなかったので放っておいた。途中テレビで気になるニュースをやっているのが聞こえたのでそっちに目を映した。爆発音がしたので料理をしていたことを思い出した。うまく煮えていた。
「……で」
「粥だ」
「これが?」
 器に移し泉兎に持っていってやったら壮絶にげんなりした顔をされた。心外だ。
「あの、虎南さん。これなんか黒いんですけど」
「粥だ」
「赤いものが浮いてるんだけど」
「たぶんトマト」
「この焼けてるの米?」
「米じゃないか」
「……どろっとしてるのは何故?」
「塩じゃないか」
「片栗粉じゃないか」
「……」
「……」
 微妙な表情で視線を行ったり来たりさせる泉兎。確かに、うまそうには見えないと思う。自分が食べるのではないから気にしていない。
「闇鍋じゃね?」
「明るいところで煮た。食わんと薬飲めないんだろ」
「……悪化しそう」
「人の親切を何だと思ってる」
 しばらく俺作の粥を見つめ、観念したように泉兎が溜め息をついた。思い切って一口含む。
「甘っ!何これ甘っ」
「へえそうか」
「何もう開き直ってやがる!ココアかこの茶色いの」
「薬置いといたから勝手に飲め」
「ちょっ逃げやがった!虎南のあほ!つーかお前は飯どうするんだよ」
 ドアに手をかけたところでぎゃいぎゃいと尋ねられたので振り返る。
「ピザを頼んだ」
「……」
 静かになった。これはいいとばかりに部屋を出た。
 退室する寸前、何か不穏な言葉が聞こえた気がした。

 後日、俺の財布からごっそり金が消えた代わりに真っ白い派手なコートが贈られてきた。



これは思いやりです。





テン様宅の虎南さんと泉兎さんをお借りしました。
虎南さんがキッチンを破壊する様を書こうと思ったんですがなんだかひどいことになってしまいました。虎南さんはもっとまともですよねすみません!
泉兎さんからの贈り物は感謝の気持ちです。
お二人の関係性が素敵で素敵で、頑張って書いたのですが偽物くさくなってしまい申し訳ないです。
テン様、この度は書かせてくださりどうもありがとうございました!


昏さまへ
まず、始終笑いが止まりませんでした。
次に、笑いが止まらなすぎて同じ部屋にいたお姉様に気持ち悪がられました。
最後に、笑いすぎて腹筋にダメージが来ました。
だって想像してみてくださいよ虎南二十二歳性別オスがキッチンでやらかしちゃってるところ!
ま ん ま じ ゃ な い ッ ス か ←

こんな素敵な作品を書いてくださって本当にありがとうございました!(^^)






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