「……匂い? あぁ、今から昼ですから」

「って、ここお前の家!?」

「そう言ったじゃないですか。まぁ、正確には違いますけど」


そう言って少年は持っていた紙袋を持ち直した。
随分重そうだ。


「買い出し? そう言うのってお手伝いさん的なのがするんじゃないのか?」


泉兎が不思議そうに首を傾げる。庶民が抱く金持ちのイメージとしては、普通の意見だろうか。

屋敷にはお手伝いさんやコックがいるイメージだ。


「ここにはそう言う人は雇ってませんから」


だが、少年は首を横に振り否定した。


「料理も掃除も俺がしているんで、十分です」

「じゃあこの匂いはお前が作った料理!?」

「はぁ、まぁ。と言うか、何なんですか」


料理に食い付く泉兎。少年は意味が分からない、と言った様子だ。


「あー、そいつ料理がマイブームなんだ」


付け足すように虎南が教えれば、「へぇ」と少年は空返事をよこす。


「それじゃあ」


そしてそのまま家に入ろうとする少年は、二人に興味が全くないのだろう。
だが、泉兎がそれを許さなかった。
少年の紙袋を奪い取ったのだ。


「……何するんですか」


少年の眉間に皺寄る。


「これ、何の料理の匂いな訳?」


そう尋ねた泉兎の姿は、まるで新しい玩具を与えられた子供のようだった。


それにただ、少年は不機嫌面を浮かべるだけだ。


「良いだろ、教えてくれても。減るもんじゃないし」

だが、そこは一歩も引かない、泉兎。ついには少年の方が折れた。


「イタリア料理ですよ」

「イタリア!? 何、お前そんなの作れんの?」


少年の答えに更に興奮する泉兎。少年は片方の手で額を押さえると、呆れた様子を表現してみせた。


「なぁ、今度教えてよ。イタリア料理の作り方」

最終的にはそんな事まで言いだしてしまった。
それを無視して少年は家の中へと入ろうとしている。

泉兎のやりとりが面倒になったのだろう。

だが、家の扉を開いた辺りで動きを止め、少年は肩越しにこちらを見据えてきた。


「そんな機会ないでしょう? それでは、さようなら」


軽く頭を下げると、少年はまるで話を無理矢理断ち切るかのように、玄関をしめた。


「お前、何考えてるんだ」

扉が閉まってからの虎南の第一声はそれだった。

そう思っても仕方ないだろう。
今話していたのは、子供と言えどファンタスティックの軍人で、先日仕事場で殺気を交わせた相手だ。
実際殺気を放ってきたのは、背の高い男の方だったが。

ある意味敵となりうる存在。なぜ仲良くしようとしているのか。

不思議に思い、尋ねてみたが、答えは実に簡単だった。


「料理がうまくなれるかもしんないだろ!」


泉兎は満面の笑みでそう言ったのだった。


「よし、やっぱ今日は帰って俺が昼飯作る」

「はぁ?」

「イタリア料理作りたくなった!」

「……スパゲッティか?」

突然の宣言に虎南は思い当たるイタリア料理をあげる。だが、彼は本気なようで……。


「もっと本格的なのに決まってんだろ」


その日の昼は、イタリア料理失敗作になったのは言う迄もない。



「うわ、失敗した。まぁ、最初はこんなもんだよなぁ!」

「……」

「やっぱ、あのガキに聞いてこよ」





Fin.





ぎゃああああ今回の一番のツボは何より泉兎さんのお馬鹿っぷり!!笑笑
前半が緊迫感漂うシリアスなシーンだけに、後半のギャグテイストが際立って何とも言えないムフフなハーモニーを奏でて……!←興奮で何言ってるかわからなくなってます
キャラ崩壊大好きなテンにとって、今回のコラボ作品はとてもおいしくいただくことができました(^^)
瞬さま、本当にありがとうございました!






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