集中しろ。
集中しろ。
集中しろ。
理性を飛ばすな、考えろ。
止せと言われはしたが、ぐらぐら。血とか脳みそとかが沸騰しそうだった。
ああ、何が目的で潜入したんだったっけ?死人は出さないってのが鉄則だけど、うっかり破りそうだ。
集中、しろ。
やらなきゃなんないのはこいつらの抹消じゃない。
「……止めとけ、虎南。手は出すな」
「解ってるよ。一応な」
血が、落ちる。俺のじゃない、相方の腕から滴っている。でかい鼻の男を睨んだままの俺を制する、その掌は赤く。
また報告書モノかと妙に冷静に息をついたのが、相方の泉兎。割れたガラスを腕に刺された上、窓から外へ今にも落とされそうで。それが俺の目の前で起きている事だったから、こんなに苛立つのか。
ふざけるなよ、白豚め。
噛みしめた奥歯に力が入る。手を出すな、とは言われたが、手は刀にかかる。
ひとつ長い息を吐く。相方の足が浮く。俺は刀の柄を引き、姿勢を低く構えた。
男の目線が俺に向く。馬鹿、やめろ。そんな声が聞こえたが、足が先に動いた。 刀の柄を男の脇腹にぶち込む。ぐ、とくぐもった声を喉の奥から出し、男が泉兎から手を離しうずくまった隙に、泉兎の手を引っ張り、出入り口から走って外へ出た。
追っ手を避ける為に入り込んだ裏道。建物の壁際に座り込み、持ってたハンカチを泉兎の腕に縛って血を止める。
馬鹿、と言われる。
「お前、ほんと馬鹿」
「……うるせえよ」
とりあえず死人は出してない、そう言えば、馬鹿、とまた言われた。
「利き手だ。どうするかな」
泉兎が呟く。俺は何も言葉が出てこなくて、縛ったハンカチをただ眺めてた。
目の前で、泉兎が何か言う。「馬鹿」よりは長く口を動かしていたようだが、耳に入った車のクラクションの音で、声が何も聞こえなかった。
眉を顰めた俺に、泉兎は笑った。もう悪態はつかれなかったけれど。
なんとなく、こいつが何を言ったか理解は出来た。
ぽつりと灯る街灯。影が長く伸びていた。俺はその淡い光を見ながら、息をつく。
何か、胸の奥に刺さった。縛ったハンカチに滲む血が、視界に入る。
笑うなよ、そんな怪我しといて。呟く俺に向けられたのは、やっぱり笑顔だった。
も、やば……!! 愚息共をここまで違和感なく書いてくださり、本当に感激です!
鼻から溢れ出るこの赤い水はどうしたらいいでしょうね先生! はいわかりました感情に任せます!←
桐島さま、どうもありがとうございました!(^^)
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