走る
2014/12/01 23:02




走る。走る。走る。ひりついた喉の痛みに眉をしかめると視界は狭まり、いくらも経たぬうちにゆらり、水面のごとく揺らぎ出した。罵声を、悲鳴を、嘆きを、あのときあの場所で吐き出せていたのなら。わたしは一時の解放を味わい、そして先へ続く嫌悪に縛られていたのかもしれない。



走る。走る。走る。目まぐるしく通り過ぎていく景色など意識もせず、手当たり次第に角を曲がりやがて疲労で立ち止まる頃には、見覚えのない路地にしゃがみ込んで顔をその手で覆っていた。だって知らなかったんだ。手を伝い雫が落ちる。ひとを好きになることが、こんなに胸を締め付けるなんて。



走る。走る。走る。まるで世界が化粧を施したかのようだった。カーブミラーが朝日を反射するただそれだけの光でさえ、宝箱からきらきらと漏れ出る希望のごとく目映く美しい。世界は美しい、そう讃えた先人の双眼にも映っていたのだろうか。この景色が。はやる期待が。胸を躍らせる朝日が。







スタートは同じ。
それぞれの思い。






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