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ある時
男がいた。




正義をこよなく愛し、民を束ねる主となりて、神と崇められた。

そして男は、ある女を大層愛でた…。










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交易島としても名高く賑わうレガーロも、静寂に包まれた夜は不気味に感じる。
そんな暗闇の中を、複数の足音が駆け巡った。

それは、あまりにもこの場に似つかわしくないもので
丸く輝く月が、そんな彼らに自身の光を降り注いで照らしている。




「……早いな」




嘸や冷静にぽつりと呟いた、先頭を突っ切る青年は、前方の人物との距離を無くそうと試みる。
風が生まれ、彼の青く深い色合いの髪が彼の表情を晒外気に曝した。

その数十ほどの集団の少し前方には、軽い足取りのもう一つ別の足音があった。
彼らはその影を追っているようだ。




「ファラオ…」




斜め前を走る青年をみて、その真後ろを走っていた少女ともとれるほどに小柄な人物が、不安げな表情で彼の名を呼ぶ。
呼ばれた本人も、後ろを見やった。




「…ダリア」




それが合図だったかのように、青年ファラオは
何かを唱え始めた。
すると、その場一体が青白い光に照らされたかと思うと、前方めがけて放たれた。

だがその光線は途中でぐにゃりと歪む。
うまく、ターゲットに交わされたようだ。




「あっ、…もう、何外してんのさっ」




高めの声を持つ一人が、不満げに言い放つ。
当の本人は気にするでもなく、今度は自分たちに向けてその影が放ってきた緋色の光をよけた。
そして光の飛んできた先を見つめ続ける。




「…あーあ、逃げられちゃったよ。ファラオの所為で。」



その高めの声音は、いまだ青白い光に身を包む彼に向けた嫌味
ファラオと呼ばれた青年は、静かに切れ長の目を声の主に向ける。




「こら、止して頂戴二人とも。ビート、アナタはいつも余計なこと言わないで」




そして、仲裁として割って入ってきたのは落ち着いた声音だ。

仲裁と言いつつも、ビートという青年がちょっかいをかけることは今回に限ってのことではないため
ファラオ自身、ほとんど相手にはしていない。




「シータ、ほっておけ。…いつものことだ」




気だるそうにファラオが、仲裁役を担った彼女にささやいた。
気だるそうに。

そしてもう一度ビートを目の端で見やった。
彼は挑戦的な目で自分を見ている。

その光景に目をほそめて、ファラオは腕を見ている方向とは反対…
今自分が背を向けている方向に腕を伸ばし、先ほどの青い光をもう一度放つ。

その光線が曲がることなく、今度はまっすぐに暗闇を駆けていった。




「…ファラオ、どうする。対象は消えちまったぜ」




ほかの皆は、その背を見つめながら彼の言葉を待った。
終始無言で一点を見つめていたファラオだったが、纏う輝きを治まらせ、振り返ってこう言い放った。




「今日の俺たちの任務は、この島にあの女がいるかどうか確かめること。それ以上の詮索は無用だ。」




帰るぞ、そう呟いてその場を離れ始める。
足を進めながら後ろを振り返りビートを最後に見ると、彼は口角を上げていた。






「余計なことは考えるな。」





釘を刺しても、こいつには何の障害にもならないことは分かっていた。





「…緋い光」





青年は、目を閉じた。




…やはり、似ているな。









「…シビル」



あの方に。












集団の視線の先、もう姿の見えなくなってしまったそれは、緋色の女…



エルフィアナだった。










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『っはぁ…あ、……はぁ、』





影が一つ、暗闇の十字路をそれて進路を変えた。

赤い髪が、耳から落ちていく。





『……』




彼女は右肩に左手を添えた。
とっさの攻撃に対応し
結果、素肌を晒すことになってしまったそこは、冷たい風にズキズキと痛みを刻んだ。






『……、』








彼女は深く息を吐いた。

























ある時
男がいた。


正義をこよなく愛し、民を束ねる主となりて、神と崇められた。

そして男は、ある女を大層愛でた…。







二人の神の間にまた神々が誕生した…。

平和な世を願う彼も、いつしか
やがてこの世界をすべてを手にしたいと抱く。

神々の頂点に君臨し、権力も名誉も、女も力も
いつの間にか
ほしいものは簡単に手に入れてた男。







…女は、女だけは気づいていた。





男は渇いていたのだ…。


やがて男はすべてを知る…。













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