Rispettivamente













あの嵐が嘘のようにレガーロ人民の頭上には、広い広い碧空が広がっていた。

そして、この穏やかな太陽の光同様ファミリーたちの生活も……
とは、いかなかった。










髪は完全に水分を含んでいた。

着ている衣服は、冷たく
身体を守るという本来の役目を果たすことなく
寧ろ、自分たちの体温を奪う者へと化していた。

…そんな状態の2人が
ファミリーの館に戻ってきたのはちょうど
ただの雨が暴雨、雷雨へと移り変わっていくあたりだった。




「…ごめんね、ノヴァ。」

「…いや、構わない」




そもそも、今ではない
それほど強くもなかった雨に、こんなに濡れてしまうハメになったのは

自分の集中力の散乱のためだと、フェリチータは謝罪した。

謝られたノヴァは
目をあわせることなくぶっきらぼうに返答する。




「…それより、フェル。」

「ん?」

「お前の話が、早く聞きたい」

「…うん、」





雨でずぶ濡れになってしまったことよりも
それのほうが

今のノヴァには重要なのだ。


フェルが掴んだ──きっと、あの赤毛の女の──その話しとやらを

キチンと整理して
照らし合わせて

あの事件を、本当に終わらせたい。




…ただその一心だ──。

















「お嬢!」





着替えが済み、ノヴァがフェリチータの部屋へ入ったのに続くように
部屋に入ってきたのはリベルタだった。





「リベルタ、どうしたの……なんか急いでるみたいだけど」





形を大きく上下させているリベルタに
フェリチータは目を数回瞬かせる。





「えっと、お嬢に言わなきゃならねーことが、あったんだけど」

「忘れたのか」

「ん!?………んなわけねぇよ!」




リ・アマンティが発動し
言葉のでないリベルタの代わりに、事の詳細を教えてくれる

…どうやら
ジョーリィに頼まれた伝言とやらを伝えにきたらしい。
こんな状況だから何も言われはしなかったが、ノヴァにアルカナの制御をマスターしろと煩く言われていることを脳裏に思い出す。





「えっ…と、………や、分かるんだって!」






なかなか話そうとしないリベルタに段々と苛々が募る
痺れを切らしたノヴァは、“さっさと話せ!”と叫びながら
立ち上がる。








「……ジョーリィの伝言?」

「……そ、そう!」






フェリチータの言葉に、リベルタが即反応する
はじかれたように話し出したリベルタ

フェリチータ自身、アルカナ能力により
すでにその伝言とやらは分かってしまっていたのだけど。















「……もういい、フェル。こんな奴はほっといて」




ろくに伝言もできないなんて……、と目で煽る。




「なーに失礼なこと考えてんだぁ!?」

「煩い、お前に心を読まれてたまるか」

「も、もう!二人とも、落ち着いてよ」





この胸の内を誰かに打ち明けたくてうじうじしているのはフェリチータだって同じ。

この場で言い争いなど起こされても困るだけだ。





「なんでもいいから!そんなこと!」

「なんでも…」

「いい…だと…?」





フェリチータの叫びに固まったのは二人の男
石のように動きの止まった男達は、やがて動き出し
聞き捨てなら無いと言いたげな形相で彼女を見るが。





「もう、早く座って!」





その一言に蹴落とされた。















「まず一つ聞いてもいい?」

「何だ?」





話し始めた二人に、リベルタもソファーへと座る。
そして目が合うと、フェリチータは二人に向けてこう尋ねる。






「アルカナ能力を持つ人は、レガーロを去ることは許されるのかな」

「……」





少し無言が続いたが、その疑問に口を開いたのはノヴァだった。




「どうして、そう思った?」

「えっ…」




予想だにしてなかったノヴァの質問にフェリチータは言葉を詰まらせる。

視線を逸らすことなく、自分を見つめてくる彼を意地の悪い人だ、と
心の中でののしった。

だが、先に折れてくれたのは彼で
吐息を漏らすと言葉をつむいだ。





「…特に決まりがあるのかと言われれば分からない。だが、同じタロッコを宿す身ならば、アルカナ能力が他国にどれほどの災いを齎す物に成り得るかなどは分かるのではないか?」

「そうだよな。使いこなせていない奴が、余所で能力を使ってるっていうなら……パーパも、うんとは言わない」

「……そう、」





フェリチータは膝の上で拳を作った。





「俺、ここに来る前にジョーリィのところにいたんだ。」

「…ジョーリィの?」





リベルタの口から出るには珍しい名
あの幼馴染たちほどではないけれど、ノヴァもあまり彼にはいい印象が無いらしい。

それで、と先を促した。






「いや、エルモとリストランテに行ってたんだ。で、俺が目を離してはぐれて…。まあ、すぐに見つかったんだけどさ。」

「それで、ジョーリィのところに連れて行ったのか。…その話が一体今回の件にどう繋がるんだ、」

「最後まで聞けって。俺がエルモを見つけたとき、エルモのことをずっと見てくれてたやつがいたんだ。」

「リべりタ…その人って、」





フェリチータの問いに、リベルタは静かにうなずいた。





「瞳は灰色、髪はお嬢よりも深い赤髪だった…。追いかけようと思ったけどエルモがこけたんだ。」

「…」

「でもそいつ、エルモがこける直前に振り返った。」

「……」

「それだけじゃ、証明には…」

「じゃあ、これはどうだ」





フェリチータの言葉をさえぎる。





「その女性は、エルモの名前を知っていた───、」

「…本当か?」

「ああ、」

「その女性も、僕たちと同じ…先天性かもしれないな。」






「お嬢…?」




うつむく彼女の姿にリベルタが呼びかける。
それとは反対に、ノヴァの顔つきは彼女の様子とまったく逆だった。
先ほどの問いに、心に埋めていた疑問が確実のものとなったのだ。





「フェル、これで今抱えているすべての義解が晴れた。」




ノヴァの声に、フェリチータが顔を上げる。




「お前の考え、俺の考え。そしてリベルタの考え。きっと同じだろう。」

「…っておい、お前どこに行く気だ?」




そこまで言って立ち上がるノヴァに、二人も釣られて立ち上がる。





「決まっている。すべての始まりは『世界』だ。」

「…パーパのところ?」

「ああ…。『ただの』一般市民にあんなに躍起になるのがおかしかったんだ。」

「あの子はただの人じゃない…」

「必ずパーパは何かを知っている。」


























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