L'intenzione di un sciocco.










「なァ…」

「どうしたの、デビト」







降ってきた声に、すぐさま反応を示したのは
リストランテでラザニアを頬ばる彼

そんな彼を見たデビトは、ワザとらしくため息をつくと
告げようとした自分の言葉を棒に振った















「パーチェ…お前、食べすぎだロ」






何杯目か分からないくらいに詰まれた
空っぽのラザニアの皿が目に入り
うんざりだといわんばかりの表情を浮かべて見せる







「そう?」







デビトは、いろんな意味で視線を投げた。







「で?何」

「あ?」

「俺に何か言いかけてたでしょ、デビト」







ラザニアの大きな皿から顔をあげたパーチェ

デビトを見たまま
自身の口元についたそれを、親指でクイっと取って舐める


それを見て、デビトは
後ろの背もたれに体を預けた






















「…心あたりが、あるンだよ」

「……心あたり………例の少女のこと?」








そう。
フェリチータの、ノヴァの話を聞いてから
彼の胸の中は、モヤモヤとしている


あの、レガーロで起こった誘拐事件を
たった一人で解決へと導き出した赤毛のオンナ






そんな奴ほっといてもいいはずなのに
ノヴァから伝えられたのは、そのオンナを保護しろというパーパ直々の命だった




そしてこの二週間、各セリエが血眼になって調べてきたのだが





でてきた情報は最早
情報と呼べないほどに、どうでもいいものばかり









「仮にも大アルカナの俺達が捜索してるのに
……よほどその子猫は、逃げ足がはいみたいだね」

「……あぁ」

「これといって、明確な情報も無いっていうのは……」











あぁ、







「……ものすごく、痛手だとは思うんだよね」








ペロリと
自身の親指を舐める

そのまま、爪を噛むように口元に添えたまま
パーチェは思案顔でどこか一点を見つめていた


そしてデビトは、今日のリストランテの代金を、どう彼に払わせようかと

そんなことを
忙しく回転している頭の片隅で、半ば真剣に考えていた。










「…帰るぜパーチェ、…これは降ってくる」

「え?」








立ち上がり、空をみるデビトの言葉に
パーチェも上を見上げた








「……晴れてるよ?」

「いや…」








パーチェが、人差し指で空を指しながら
デビトを見た

今日はレガーロ晴れ

雲一つないに等しいほどに
晴れているというのに。











「これから、荒れてくんだよ」

















──












…部屋の主が
この場にすぐいて、良かったと思う










「…ほぉ、珍しい客だなリベルタ」

「お、おぅ」









ファミリーの一員となって随分と経つが
やはり、苦手なものは苦手らしい

彼にはどうも、この薄暗い部屋は合わなかった









「じ、じゃあなエルモ!
俺はノヴァのところに用があっからさ!」

「待てリベルタ」








少年の手をはなし、保護者であるジョーリィへと預け
足早にこの部屋を去ろうとするリベルタだったのだが

“彼は”それを許しはしなかった


何かを諦めたように、リベルタは深く息を吐いて
後ろを振り返った










「フェリチータお嬢様を、みかけなかったか?」

「お、お嬢?」








そんなことか。

一気に変な緊張がとけたのか
片手を添えて肩を回しながらリベルタは彼を見た


何かと理由をつけては、自分との接触を避ける息子の代わりに
また、研究の買い出しリストでも押し付けられるものだと思っていたのだ








「お嬢なら、ずっと部屋に籠もりっきりだぜ?」







今度は、人差し指で頭をかく

そういえば、確かに今日は
言葉通り フェリチータの姿を見てはいないな、とふと思った








「ほう…」









……けど、何でだ?


そんなリベルタの些細な疑問を
この男は、
見事に流してみせる










「……じゃあな」







少しムッときたのか、そのままリベルタは
振り返り扉のノブに手を添えた







「あぁ、待てリベルタ
もしお嬢様のところにも寄るのなら、……こう伝えてくれ」

「…伝、言……ねぇ」

「長いぞ。お前のその単細胞な頭で、どれほど覚えていられるか、見物だな」






一瞬、ジョーリィを見るリベルタが固まり
その後彼は、ノブから手をはなした






「何だとジョーリィっ…、単細ぼ

「考えすぎて、このファミリーから
何も告げずに抜け出そうなんていう馬鹿な考えは持つなよ
まぁ、そうなったとしても
互いを引き合わせるタロッコが、またお嬢様を呼び戻すだろうがな。と」








そう言いながら、錬金術の青い炎で火をつけた葉巻を、ふかすジョーリィ

リベルタとジョーリィがいるこの空間は、すくに白い靄に包まれた








「…それで……いいのか?」

「あぁ。そのまま伝えてくれてさえいれば、それでいい」

「…おー。」








片手をあげて、リベルタは
今度こそノブを捻った

そして最後に一度だけ、その碧眼は
男の後ろで、不安気な少年をうつすのだ




















「………」








残された少年は、目の前の痛い視線を気にしつつ
彼の後ろ姿を、恨めしそうに見つめた








「ジョーリィ……ごめんなさい」

「……それだけか」






ふたりきりとなったこの部屋で
サングラスの彼に、エルモはすぐに謝った。

言葉を聞いた彼は立ち上がり
ベッドに腰掛けるエルモのもとまで葉巻を加えながら近寄る




「……」






彼がしゃがみこむと
ちょうど、エルモとおなじ目線の位置にくる

それほどまでに、ジョーリィという男は長身だった。




ジッと、注がれる視線に どう対応すればよいのかわからず仕舞い
エルモはただ、視線をさまよわせるばかりだ。






「………」






やがて、間に葉巻を挟んでいた彼の手が
決してゆっくりとは言えないスピードで、エルモの顔に延びてきた






「………っ」






殴られる…

そう思い、反射的に目を閉じ
手には力が込められ、拳ができる


……。








「……ジョーリィ……?」






だが、

降ってくるとおもわれたその大きな手は、意外にも手前で停止したようで

その代わり、あやすように頭をわしゃわしゃと撫でられる


突然の驚くべきことに、ギュッと閉じていた目を開ける






「ジョーリィ…?」

「勝手に館を抜け出すな …例えリベルタや他の誰と一緒でも
ここも最近物騒だ、いくらアルカナを宿していようが」

「うん、…ごめんなさい」






自分を心配していてくれる、ジョーリィが

そのことを、感じることができた



最初とかわらず、その声音は
申し訳ないことには変わりないが

今度は、少しだけ弾んでいた。













「ねぇジョーリィ、迷子よりももっと大変なのってどんなこと?」

「……なんだ、それは」








どんなこと、と言われても
当てはまる答えはいくらでも考えつく

葉巻の吸い殻を、小皿に押しつぶした










「赤いおねぇちゃんがね、ボクにそう言ったんだよ」

「…赤い、女」

「ボクを、リベルタのお兄ちゃんのところまで連れて行ってくれた」

「……ほお、」








エルモは、そこからその女性について嬉しそうに
ジョーリィに話してきかせた








「綺麗な赤毛でね、瞳も凄い綺麗なんだ」

「…さて、さぞかし綺麗なのだな。どんな色合いだ?」

「…え?」









どうして、皆

彼女の瞳の色に注目するのか。




エルモが、話に夢中で上向き気味だった顔を
ジョーリィと同じ高さに向けると

かれは、葉巻を潰し
自分を見ていた


















「……」







リベルタとの会話がある手前

話すことに
あまり気乗りはしなかった。














「……灰色、か」







え?





自分の声が、知らぬ内に漏れていたわけではないらしい

では、誰が…

そんなことは、考えるまでもない
自分ではないのなら…

もう一人。

















「…………そうか、」








…フッ、



迷子、以前の問題


この十年かけても
やはり

まだ、見つけられなかったようだな










「……ジョーリィ、お姉ちゃん知ってるの…」











だが
その代わりに

失くしたものは

いかにも、多く存在しているようだがな。












「雨が、酷くなってきた。エルモ、体が濡れているだろう」

「………大丈夫だよ、ジョーリィ」

「……そうか」








エルモの疑問が、晴れることはなかった。

















──
















一方、ジョーリィの部屋から去ったリベルタは
その“伝言”を伝えるべく

フェリチータの部屋へと足を進めていた








「ったく、ジョーリィのやつ」







まだ、馬鹿呼ばわりされたことに
むくれているようだ

上手く消化のできない苛々から
無意識にも、進むスピードが速まる







「…ていうか、あの伝言」







どういうイミだ?








「……何も告げずに抜け出そうなんていう馬鹿な考えは持つな、か」









手の甲で、己の額に触れる

それは共鳴し
碧に光った

“愚者”という一つの者の運目を背負う
これが彼の証と化すもの







「……例え、逃げようとしても
嫌というほどに、タロッコは俺達を引き合わせるんだ」










自分も、そうだ

ダンテに救われたこの命




命だけじゃない、大切なものも
取り戻すことができた








お嬢もノヴァも、

ダンテもジョーリィも

ルカもデビト、パーチェも



パーパ、マンマ





出会うべくして、巡り合わせられたんだ。







「タロッコが、俺達を…」








リベルタは、走り出す


自分の主に
伝えるために。













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