Fato imposto













「……スミレ、等々あいつが帰ってきた」

「あいつ?……あら、私達の子猫ちゃんね」








彼の隣へと移動したジャッポネ出身の彼女が
口元に手をあてて上品に笑う

窓辺に佇んだ赤毛の彼が
部外を眺めながら、嬉しそうに口端をくいっとあげた

だが、
隣の気品溢れる彼女に見つめられたため
その口元を、自身の大きな手で覆い隠した






「何を恥ずかしがっているのかしら。」

「オレがか?」

「ええ。そもそも、ご自分で呼び寄せたのはあなたでしょう」







彼女──スミレは、彼──モンドの口元にある手を
手にとってみせ

自分の手のひらで包んだ。







「ご自分の“娘”のご帰還を願わない親が、どこにいましょうか?」







再びスミレが、モンドを見上げる

だが、己の隣に立つその人はファミリーのトップ“パーパ”でも
スミレを愛すひとりの“男”でもない

娘の帰りを心待ちにする“父親”の顔をしていた。








「たとえ、何度覚えていまいが失おうが」














レガーロ唯一の自警組織アルカナファミリア
そのトップ“モンド”により

“ある少女”の保護が改めて義務づけられたころ


その“少女”に該当する人物は

突如訪れた
それも、いま始まったばかりというのではない

“異変”に
耐え忍んでいた。













──













日陰を求め街の狭い通りに入り
エルフィアナはそこに腰を下ろした








『……はっ、…クッ』







気分が悪い、吐きそうだ。


あまりにも、呼吸が荒い
いままでにもこんなことはあったが

ここまで酷いことはあまりなかったはず…









『クッ……っ』







今回のことは、エルフィアナに“も”
あまりにもメリットが少なすぎたようだ








『…っ、』








疲労感が、エルフィアナの身体中を襲った
苦しくて 胸倉を掴む


無意識に口元に動く手

…だが彼女の手は添えられることのないまま
それを遮るかのようにエルフィアナのその手を掴み取った人物が

意識を既に失いかけた彼女の、ふらふらの体を支えた。











『……ユ、ピテ………ル』










荒い呼吸で、声にならない声を
エルフィアナは絞り出した


あまりにも小さなその声が、“彼”に聞こえたか分からなかったが

その暖かいぬくもりの持ち主が
僅かに微笑んだ気がして


朦朧とする中で
エルフィアナは、意識を手放した。















「………」





























次にエルフィアナが目が覚めたころには

レガーロ晴れともよばれるこの地特有の
青々とした空が広がる昼だった。












『………』








強い日差しを眩しいと感じ
身体を包み込む真っ白なシーツを頭まで被る

ひさしぶりに感じた
このほっこりするような、布地の安心感に
まだ身体を起こすことが、勿体無い気がしたのだ。







『……!』








だが、急に
エルフィアナは身体を起こす

そして、あたりを十分に見渡した


そこが、己のよく知る場所だと確認すると
ホッと肩の力を抜いた








ここは、彼女がレガーロ島にきて
住居としている家

しばらくはこの島にいるつもりなのだから
キチンとした宿を取る必要があったのだが

どこの宿も、満室
途方にくれていたところ、声をかけてくれたのが
この家の提供者である主人の女性

もう使わないからと、住まわせてもらったのだ。










『……身体が、怠い』







背中、身体中が汗でびっしょりだ
着ていた衣類も、随分とそれを吸収している

このままでは、身体を壊しかねない

気怠さに身を任せて、またベッドへ倒れ込むわけにもいかず
身体を洗う為に、エルフィアナは部屋をでた。













『………』








鏡に写し出された己の顔は
死人か、というくらいに真っ青だったのだが

したたる大量の汗は、死人にはあまりにも不似合いだった












部屋に戻り、エルフィアナは再びベッドへ潜り込んだ。






『…………』







“今回の”発端は、
アルカナファミリアの追っていた、あの誘拐犯に手を出したことから始まるのだろう







『一般人に、力なんか使うんじゃなかった…』







お陰様で、きっちりと“請求”されて失われてしまった。

この腑に落ちない真っ白な頭と
まだ残る気怠さが なによりの証拠



彼女がいたあの場に、少なくとも一人はアルカナファミリアの人間がいた。

…見られてしまったのだろう。






となると、当然アルカナファミリアの連中は

必ず、自分を建前は保護だとかの名目上で捕縛しにくる。









『……』










たとえ、
自分の中から何度、失われてようとも


自分は“知らないそこ”に戻らなければならなかったのだ。
そのために、この島に来たようなものなのだから。












 




“たとえ、何度覚えていまいが失おうが”


“お前がここにいた事実は”

“決して俺達の中からは、失われはしない”



だろ…?







エルフィアナ










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