「こうしてきてやっていると言うのに。やはり人間は薄情な奴らだ。」
西の頭領。
風間の若頭。
この俺が。
「皮肉も言い合う奴がいないとなると、こうも虚しくてたまらぬものとはな。」
鬼の俺が、ひとりの女に……ましてや
人間の女に振り回されるなど。
───
─
──
「………馬鹿な人間が、何度戦を起こそうとも、……変わらぬな、ここは」
…気まぐれだった。
この鬼の俺が
とうに死んでいった人間の女と
気まぐれに交わした約束を守るなど
名も知らぬ女との約束を。
知っていたのは
女が新選組の監察をしていたということ
俺に惚れていたこと
それだけだ。
他に、何もない。
女との関係は“敵”
たった 一文字で表される、安い関係。
『だって、あなたは鬼なんでしょう?』
『鬼は、交わした約束は守るんだって聞いたわ』
『私が知る鬼は、義理堅い生き物のはずよ?』
…気まぐれだ。
俺がこうして毎年
この桜を見にこの京の地に降り立つことも
気まぐれ。
口に出したことのないお前への感情を
いまだに、どう扱えばいいのか解らないことも。
お前のためではない。
…すべて
一時の気の迷い。
幕府が、終わりを迎え
新選組が錦の御旗を、掲げられなかったそのとき ──────…
彼らの誠を
私のところに、届けてください。
それが 女の死に際の願い。
「………死んだ奴に、どう届けろと言うのだ、あの女は。 」
『千景は優しいね』
『不器用だね』
『それでいて、』
“…残酷な人。”
“最後まで”
“私が本当に欲しかった言葉を”
“あなたは囁いてはくれなかったのよ”
「お前に、何がわかる…」
お前に、俺の
鬼の何がわかる。
“あなたは囁いてはくれなかったのよ”
女はそう言った。
そう言って、逝った。
「お前だけを、愛して今…」
“会津へ”
“共に行こう”
“愛している”
苦しむお前を前にして
こう、伝えていれば…
「お前は、女鬼になれるというのか?」
愛でた花は、思う心と偏に。
「……女よ。今年も、この薄桜は花を愛でている。」
(お前の、ように。)
(無様でも、懸命にな)
back