「俺さ、あの時……、お前と一緒に」

「逃げることができたら、どんなに幸せかって…」

「そう、…思っていたんだよ…」

「なぁ、……」







池田屋


私に刺され、横たわる

馴染みだった長州浪士を見て
そして、涙を流す私を見て





“ごめんね、守りきれなくて”





たしかに、そう言ったのは
あなたでしたよね。







「…では、失礼します」

「あぁ、助かった」

「お互い様ですよ。…副長も、お早めに休んでくださいね」







あの日、赤黒い世界のような血の海

情事後の冷え切った──血まみれの──身体を

この場には、なんとも不似合いな、温もりで包み込んでくれたのは



人を斬ることに慣れてしまった、冷え切った心を溶かし
情というものを湧かせてくれたのは







あの日

あの部屋で共にした
、あなたでしたか………?











夜はもう、冷え込む季節となった。


それでも彼は
私が、土方副長の部屋から
自室に戻るまで

その場を去る気はないらしい。







その日もまた、

私の部屋の前で
腕をくむ彼を見つけた。






「……沖田さん?」

「……」








 こんな遅くに

 どうかされたんですか──、







どうして、彼がここにいるのかなんて
だいたいはもう

予測がつくところまできているというのに。




私が尋ねれば
案の定、沖田さんは



“野暮な質問だ”と、薄く笑った











…───一度だけ。








「どうかされた、って……ね、君」

「え…」





そこからは、もう早くて


半ば、諦めすら感じていた。














「ゃだっ……沖田さ、……まッ、て…」







自室へと放り投げられた私の体は
彼によって、意図も簡単に組み敷かれた



迷うことなく
真下にいる私に、顔を落とす。











「……ッふぁ、……」

「………」








歯列をなぞるような口付けに
背筋がぞくぞくする

沖田さんの囁きだけで
手の力が、抜けていく。












「監察型だからって…ッ、いつもいつも、こんな夜遅くまで」

「………ゃ、だ…」

「あの人の部屋なんかに入り浸って、ッさ」

「沖田さッ……ッあ、…!」












抵抗しようにも
体はすでに拘束され

ほぐれきった体も
力がはいるわけがなかった





「まさか、土方さんのところでも……、こんなことしてきたりしてさッ」

「そんな、ことなッ……!」









まだ十分に濡れていないのに

沖田さんは
主張するそれを、

私に押し込んだ










「ひゃ、…ああッ……」







暗がりでの不本意な行為に
いつ降ってくるのか分からない口付けに

背筋がのけぞった。






「…ねぇ、君さ、……さっきも山崎くんと話してたよね」

「……任務ッ、で…それ、はッ」

「……ふーん、気にくわないなぁ」








眉間に自然とよってくる皺

そんな私の顔をみても
沖田さんは

止めない




お構いなしに
律動を開始する














「、やっぱり」

「……」



「面倒だね」

「あぁッ…」







私を冷たく見下ろしながら
そう吐き出した言葉






 、お前──…






私を穢した、あの浪士の驚愕とでもいう顔が

突き刺された太刀を見てからの
冷たいモノに変わった

あの表情と、重なって仕方ない。










沖田さんが、私の右肩に手を添えた







面倒なら
こんな、不毛な関係

早く終わらせて




私は決してこんなこと
望んでいないはずなんだから。









「……ッ…、」

「なに、」







生理的な意味でない
そんな涙が溢れる









「泣かないでよ、面倒だ…」







正面にいる沖田さんの顔が歪んでうつるのは
涙のせい


だから気のせい










「……………、」











思いだしてよ


彼が私に見せるのは
上っ面の、渇いた笑みだけだったでしょう?

そんな人が

沖田さんが、私にこんな
悔やまれるような
悲痛な顔をみせるはずがない






全部、全部ぜんぶ










「……っ、ふぇ……ッ」







この涙だって

こんなことでしか欲を満たせないこの人への
哀れみ

それを拒むことをさせないこの人への
軽蔑心










「……名前、」







なのに

酷い言葉を浴びせられても
こんな行為を無理強いされても

彼を心から嫌いだと思えないのは


その冷たい目とは裏腹に、まるで壊れ物を扱うかのように私に触れて撫でるその手があるから。






「……泣かないで、泣かないでよ名前」

「……ッ、ふ、」







そんなに、優しく呼ばないで


そこで
優しくするなんて


狡い…






 京に、火を放つ

風の強い日にだ




みんな反対してはいるが
やってみなきゃ、何もわからぬままだからな

だから、俺はやる




だから……


その時は…“








あの日、私が刺したあの男の
なんとも甘い言葉が…

何故か
沖田総司の、私の名を呼ぶ声の方が



私を惑わせる…















「早く、僕を……受け入れてよ」















抱かれるたび泣く私を
毎度沖田さんは、親指で涙を拭う






…あんな事を囁いた
あの浪士は


初めてだった私を

己の欲にかまけることなく
こんなにも優しく抱いた


こんなにも優しく、涙を拭うだなんて真似を











「沖田さ、に……こんな、こと…ッ」

「………いや?」

「………」

「……僕じゃ、あいつの代わりは務まらない…?」









「ッ…───」

「…やッ……、だッ」








沖田総司は

その一つひとつが優しかった





そして

抱き終えたあとに
必ず

優しく、深い口づけをおとす。




その口づけまでもが…








「………ょ、しだ…」






 吉田、









「…………」













何もかもが、
そっくりで…

重なり合って

まるで

繋ぎ止めているかのような。






「名前…好きだよ」










気を失った私に


沖田さんが呟く言葉を
聞き取ることなんて、できなくて。





「ごめんね、守りきれなくて」

「ごめんね、名前」

「君の身体を穢してしまった」






そう言って

優しく、あの日の傷痕に触れて
どんなに優しい笑みを浮かべて


そう口にしているなんてこと




私は

これからも
知ることすら、ないままで






これからも、

あの人を刺してしまった罪に
心を奪われたまま




この人に

捕らわれたままなんだろう───、と。







なんともれな

羽を失くした



なんとも巧妙な蜘蛛の巣に
絡み取られた瞬間だった。








──
──






 はい、というわけで。

 また突如
 衝動的にかいたものww


 要するにですね

 毎晩土方の部屋へ行ったり(←夜這い、いえ報告)
 同じ監察型の山崎とへらへら会話する姿を目にして
 嫉妬した沖田が書きたかったわけでして…


 長州浪士が吉原に潜伏中だからと、土方さんに行ってこい!

 …と、背中を押された←え、
 ヒロイン様々

 何となく流れでそういう風に…
 でもヒロイン、初めてです。
 情報も十分じゃないのです。

 :
 :

 はい、そして屯所
 土方から、吉原にいるヒロインを迎えに行けと命じられている山崎くん
 そして島田さんと話しているところ立ち聞きみたいな沖田ww

 山崎問い詰めて
 彼が動くわけですよ。



 そしてin──吉原、

 沖田が通された座敷の目の前には
 なんとも乱れたヒロイン……?

 




 そして、飛びますが新選組の運命を左右させた事件
 そう、池田屋です!

 
 はい、いきなりとんでもないものぶっこみました。
 そして、ヒロインと寝た長州浪士
 それは
 なんと

 吉田稔磨です

 池田屋の計画の主犯とも言われる。



 …潜入捜査中、十分に情報を得られたと判断したヒロインは
 本編でもあるように
 彼の言葉に少し揺れます(←そして身体を交えます)

 
 そして、再び時間軸は池田屋へ。



 吉田とヒロインの対峙。
 稔磨、さぞかし驚いたことでしょう
 仮にも、将来を望んだ女が敵として現れましたさ
 そして、ヒロインも
 その後の彼の表情に、深く怯えるわけですよ。
 それと同時に、吉田に
 少しでも情があることにきづくのです。




 本編どおり吉田は彼女に刺されます
 その拍子に──こんなに上手くいくか…──吉田の刀も
 彼女の肩へ…みたいな。


 あの短い文に、どれだけのことが
 想像できたかはわかりませんが…

 そのとき、できた傷というのが
 沖田が触れたという傷痕のことですね

 そして、沖田が
 守りきれなくてごめんね、というのも
 合意とはいえ
 不本意だった行為
 それと、肩の傷への言葉。






 羽という自由を、想い人を失ったヒロイン
 危うさと時折の優しさで、そんなヒロインを
 情で繋ぎとめた巣の持ち主の沖田



 と、書いてきたものの
 このままだと
 本編よりあとがきのが何だか長くなりそーなんで

 これにて。



 因みに、最初は
 長州浪士は本当に
 ただの浪士のつもりでした

 ただ、私が個人的に
 吉田が好きなだけなのです(。・_・。)ポッ







 ばいびーん。












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